2021 Fiscal Year Research-status Report
バラ科果樹にとってハルシメジ類は“寄生者”か?それとも“共生者”か?
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18K14458
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
遠藤 直樹 鳥取大学, 農学部, 助教 (20776439)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハルシメジ / 安定同位体 / 窒素吸収 / 菌根合成 / ニホンナシ |
Outline of Annual Research Achievements |
文献調査を行った結果,外生菌根菌では14Nと15Nを区別して取り込んでいることが分かったことから,令和3年度は,ナシ,サクラ,ナナカマド,モモ,ウメを自然宿主とするハルシメジ菌株を対象に,安定同位体15Nで標識した硝酸アンモニウムを無機窒素源とした寒天培地(15N区)と通常の14Nの硝酸アンモニウムを無機窒素源とした寒天培地(コントロール区)にそれぞれ植え付けて培養し,両区でハルシメジ菌糸体の生長速度を比較した.その結果,両実験区間でハルシメジ菌糸体生長の有意な差は見られず,ハルシメジ菌株は15N資化性を14Nと同様に有することが確認できた.また,ナシを自然宿主とするハルシメジ菌株と,ホクシマメナシ実生との菌根合成試験においては,栄養源となる培地に窒素安定同位体15Nを無機窒素源としたGMNC培地を用いて菌株接種区と非接種区を設けた上で試験を行った.本菌根合成試験は現在も継続中であり,実生の成長速度はGHYG培地を用いた実験区よりも遅い現象が確認されている.加えて,今後実施する菌根合成試験を効率的に実施するため,ハルシメジの培養培地の改良も行った.具体的には,炭素源として,グルコース,スクロース,セロビオース,マンニトール,トレハロース,糖無添加を検討したところ,Gryndler et al. (2010)が海外産ハルシメジ類で試験を行った時と同様,セロビオースを炭素源とした場合に最も良好な生長が見られることを確認した.研究成果の公表に関しては,日本きのこ学会第24回大会(鳥取県米子市,オンラインとのハイブリッド開催)にて口頭発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度に入手したホクシマメナシの種子約300粒より無菌発芽を試みたが,発芽率が極めて低く,10本程度しか無菌苗を得ることができなかったため,令和3年度は,予定していた15Nを用いた菌根合成試験の開始が年度後半にまでずれ込んだ.また,白モンパ病菌を用いたハルシメジの共生機能に関する評価試験も,菌株の調製までは完了したが上述の通り苗木の調達が間に合わず,接種試験を行うに至らなかった.加えて,当初計画していた国際学会等での口頭発表についても,新型コロナウイルス感染拡大の影響で取りやめた.以上の理由から,計画した実験について十分には実行できなかったと判断されるため,(3)やや遅れている.と自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
現在実施中の,窒素安定同位体15Nを用いた菌根合成試験を遂行し,培養期間終了後に植物体の安定同位体分析を行う.これにより,窒素安定同位体15Nの植物体への移行を菌根形成区と菌株非接種区(コントロール区)と比較することで,ハルシメジが宿主植物体に15Nを供給したかどうかを評価する.すなわち,ハルシメジが植物体から炭素源を受け取る見返りとして,土壌中から吸収した窒素源を植物体に供給するか否かが明らかになる.また,菌株の調製が完了した白モンパ病菌を用いたハルシメジの共生機能に関する評価試験にも直ちに取り掛かる.具体的には,ハルシメジが菌根形成したホクシマメナシ実生と無菌のホクシマメナシ実生それぞれに白モンパ病菌を接種することで,ハルシメジに病害抑制効果があるかどうかを検証する.以上の実験を行い,ハルシメジがバラ科果樹にとって共生菌か寄生菌かの問いに決着をつける予定である.研究成果については,学術論文にて発表する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で,予定していた国内学会・国際学会への参加を取りやめた,またはオンライン開催となったため,予定していた旅費の執行ができなかったこと,また当初の計画より実験が遅れ,安定同位体のガスクロマトグラフィー分析に至らなかったため機器分析費用を執行することができず,そのため,論文発表に必要なデータが得られず,投稿費用や英文校閲費用も執行できなかったため,次年度使用額が生じた.そのため今年度は,新型コロナウイルス感染状況を踏まえつつ国内学会・国際学会等への参加を行い,また計画した機器分析の遂行,論文発表によって経費は全額執行する予定である.
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