2019 Fiscal Year Research-status Report
ウイルスは宿主の脳を操るか?:脳特異的ウイルス制御機構を用いた脳機能操作の実証
Project/Area Number |
18K14471
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
國生 龍平 金沢大学, 生命理工学系, 研究協力員 (90756537)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宿主操作 / バキュロウイルス / カイコ / BmNPV / GAL4-UAS / ゲノム編集 / 中枢神経系 |
Outline of Annual Research Achievements |
バキュロウイルスに感染したチョウ目昆虫の幼虫は異常な徘徊行動を呈する。この現象はウイルスによる利己的な宿主操作であると考えられている。これまでの研究から、バキュロウイルスは宿主の脳に感染することで直接的に行動中枢を操作していることが示唆されたが、その直接的な証拠はいまだ得られていない。そこで本研究課題は、ウイルスゲノムをターゲットにしたCRISPR/Cas9システムとGAL4/UASによる遺伝子発現誘導システムを組み合わせることで、宿主行動操作における脳感染の重要性を実証し、行動操作に重要な脳領域を絞り込むことを目標とする。 令和1年度は、引き続き実験材料である遺伝子組換えカイコおよびバキュロウイルスの作出に注力した。まず、5xUASの制御下でCas9遺伝子を、カイコU6プロモーターの制御下でウイルスの必須遺伝子をターゲットにしたsgRNAを発現する遺伝子組換えカイコをPiggyBac法を用いて作出した。また、中枢神経系でGAL4発現を誘導できるヒートショックGAL4カイコを新たに作出したほか、TAL-PITCh法を用いたノックインにより中枢神経系特異的GAL4カイコ系統を作出中である。これらの遺伝子組換えカイコを組み合わせて用いることで、頭部/中枢神経系特異的にウイルス増殖を抑制することが可能となる。また、脳におけるウイルス感染領域の変化をイメージング解析するため、感染ステージ特異的にGFPやmCherryなどの蛍光タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスを作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、作出に難航していたUAS-Cas9-sgRNAカイコ系統の作出に成功したことは、本研究における非常に重要な進展であった。また、本研究では脳特異的にウイルス増殖を抑制する必要があるが、当初使用を予定していたエンハンサートラップGAL4カイコや、既存のヒートショックGAL4カイコでは中枢神経系における遺伝子発現を誘導できないことが判明したため、中枢神経系で遺伝子発現を誘導できるGAL4カイコ系統を新規に作出する必要が生じていた。今回、中枢神経系でGAL4を発現できるヒートショックGAL4カイコを新たに作出することができた。この系統を用いれば、熱ショックにより脳を含めた頭部に限局してCas9発現を誘導する事ができるため、本研究を遂行する上で重要な進展であった。さらに、TAL-PITCh法によるノックイン技術を用いることで、中枢神経系特異的GAL4カイコ系統を作出中である。これらの新規GAL4カイコ系統を用いることで、来年度は頭部/脳へのウイルス感染の重要性を証明できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、今年度までに作出した遺伝子組換えカイコ系統を用いてウイルス感染実験を行うことで、宿主行動操作における脳感染の重要性の実証を試みる。具体的にはまず、ヒートショックGAL4カイコをGFP等のマーカー遺伝子を導入したUASカイコと交配し、F1個体の幼虫の体の一部に限局して遺伝子発現を誘導する手法を確立する。次に、この手法を用いてUAS-Cas9-sgRNAカイコとヒートショックGAL4カイコのF1幼虫にCas9発現を誘導し、体のどの部位へのウイルス感染が行動操作に重要であるか調査する。先行研究の結果からは、おそらく頭部(脳を含む)へのウイルス感染が重要であると予想される。また、実験に用いた幼虫の組織を用いて免疫染色やin situハイブリダイゼーション、RT-qPCR等を行うことにより、ウイルス感染が実際にどの領域でどの程度抑制されているかを確認・定量する。
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Causes of Carryover |
本研究では遺伝子組換えカイコ系統の作出が不可欠であるが、当初の予定よりも試薬類や人工飼料の使用量が少量で済んだため、予算の余剰が生じた。今年度、幼虫の行動のタイムラプス観察の実験設備をさらに拡充する必要が生じたため、次年度は余剰分(次年度使用額)を行動観察設備の拡充や消耗品の購入、論文投稿に関する費用に充てる予定である。
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