2018 Fiscal Year Research-status Report
Estimating adaptive differentiation between two varieties of the genus Thujopsis to Pacific side / Japan Sea side climate based on cold tolerance characteristics
Project/Area Number |
18K14494
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
稲永 路子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 研究員 (30757951)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電解質漏出法 / LT50 / アスナロ属 |
Outline of Annual Research Achievements |
アスナロ属はヒノキ科ヒノキ亜科に含まれる日本の固有属であり、冬季に乾燥する太平洋側に分布するアスナロと、日本海側の多雪地帯に分布する変種ヒノキアスナロで構成される。両変種は気候が大きく異なる地域に分布していることから、秋から冬の耐寒性の獲得過程が異なると予想され、変種間の分化の原因となった可能性がある。本研究では、アスナロおよびヒノキアスナロの遺伝子発現パターンと糖類の蓄積を調べることで、両変種間の耐寒性獲得過程を比較する。得られた結果から、アスナロ属が日本の気候に適応してきた生態生理学的なメカニズムについて考察する。 平成30年度は林木育種センター構内(茨城県日立市)に植栽されているアスナロ(岐阜県産)およびヒノキアスナロ(福島県産)各4個体についてサンプル採取および耐凍性試験を行った。葉のサンプリングは9月から翌年2月にかけて計12回行い、RNAおよび糖の抽出に使用するために-80℃で保存した。また、各サンプルから生葉を切り取り、電解質漏出法による耐凍性試験を行った。葉組織をプログラムフリーザーで凍結・融解させた時の組織の生存率から、各時点、各個体の致死率50%となる温度(LT50)を算出し、耐凍性の季節変化を追跡した。結果、本研究で使用した岐阜県産アスナロおよび福島県産ヒノキアスナロ間では、耐凍性が上昇および低下するタイミングに差が見られなかった。しかし、9月、10月、3月のLT50は、統計的に有意ではないものの岐阜県産の平均値が福島県産よりも高い傾向があり、4月では有意に岐阜県産の値が高かった(t検定、p < 0.05)。各産地の気象条件を検討したところ、各月の最深積雪深(平年値)が福島において若干高いため、積雪による保温がより効果的に行われていると考えられる福島由来の集団では、遺伝的に耐凍性が低い可能性がある。この仮説を今後の発現解析および糖分析によって検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、cDNAデータベースの構築、サンプル採取、耐凍性試験、RNAおよび糖類の抽出を行う予定であった。cDNAデータベースは、当初計画では既知の配列データベース(ポプラ、スギ、ヒノキ)およびGene Ontologyに代表される遺伝子機能データベースによるアノテーションを行う予定であったが、当初予定に比べスギ、ヒノキのcDNAデータベースおよび遺伝子機能によるアノテーションが間に合わなかった。また、年度後半はサンプル採取と耐凍性試験を優先したため、RNAおよび糖類の抽出は次年度に行うこととした。これらを総合的に判断し、今年度計画はやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はデータベース構築を継続するとともに、RNAおよび糖類の抽出を行い、次世代シークエンサーによる発現解析と糖分析によるデータ取得を行う予定である。データベース構築では、これまで使用してきたコンティグ配列が多数の重複データを含んでいることが判明したため、クラスタリングによる重複除去によってデータ量を適正化し、再度アノテーションを行う。RNA抽出は当初は1サンプルごとにキットによる抽出を行う予定であったが、現在林木育種センター所有のMaxwell核酸自動精製装置を利用した多サンプルからの一括抽出を検討している。この方法で十分量のRNA抽出が可能であれば大幅な実験時間短縮が見込める。糖分析は北海道大学所有の分析機器を利用するため、覚書の締結等の必要な事務手続きを行い、年度内に実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はRNAおよび糖類の抽出を行わなかったため、試薬の購入費用として見込んでいた約40万円が次年度繰越となった。本繰越金は来年度請求分と合わせてRNAおよび糖類の抽出試薬購入費用に充てる予定である。
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