2021 Fiscal Year Research-status Report
エルサルバドルのパイロット病院5施設における人間的出産モデルの構築と効果の検証
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18K17552
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
笹川 恵美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90757270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 助産学 / 国際保健 / 母子保健 / 人間的出産 / ヒューマニゼーション / 科学的根拠に基づいた医療 / エルサルバドル / ラテンアメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
「人間的出産」は、人間の自然な営みである分娩を生理学的に捉え直し、過度な医療介入を避け、母児の力を最大限に活かせるような分娩時のケア、と捉えられている。本研究は、中米エルサルバドルにおいて導入を図ってきた「人間的出産ケアモデル」が、どのように受け入れられてきたかをベースライン調査・インパクト調査の2時点で評価するものである。 本研究は、国立病院5施設での実施を計画していたが、うち2施設は、現地で活動中のNGOが、本研究と類似の調査を行っていたことから研究デザインを変更し、ベースライン調査ではNGOが調査をしていない3施設、インパクト調査では計画通りの5施設を調査対象とすることとした。なお、NGOとは話し合いを持ち、実施した調査の質問票および調査結果は共有してもらっている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックの発生により、保健省はエルサルバドルの全ての国立病院では医療行為以外の活動中止とした期間があったことから、エルサルバドル側の倫理承認にも時間がかかった。具体的には、国内唯一の第3次医療機関である国立女性病院の倫理が承認されたのは2021年4月だった。また、本研究者自身が2020年2月~2021年4月の期間、COVID-19の影響でエルサルバドルへ渡航できなかったことから、遠隔モニタリングによって調査準備を進めた。急遽、2021年4月に入り渡航可能となったことから5月に数日間渡航し、調査開始を見届けてから国立女性病院でベースライン調査を2ヵ月間実施した。エルサルバドル保健省の倫理審査は2022年1月に承認されたことから、翌月から第2次医療機関2施設で、遠隔でモニタリングしながら調査を実施した。なお、調査実施にあたり、現地の調査経験豊富なコンサルタントおよび調査員と契約し、週に1~2回のZoom会議を行い調整しながら調査を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は【研究1】 産後女性を対象とした産科ケア満足度調査、【研究2】陣痛室・分娩室の直接観察による産科医療・ケアの質の評価から成っている。2021年5~6月に国立女性病院で行った調査には、【研究1】として産褥病棟に入院中の褥婦256名が調査への参加に同意し、構造化インタビューに回答した。産科ケア満足度を測る指標として、英語・スペイン語版の妥当性が検証されているCOMFORTS尺度(The Care in Obstetrics: A Measure For Testing Satisfaction Scale)を用いた。【研究2】には陣痛室に分娩目的で入院してきた107名の産婦が調査への参加に同意した。陣痛室・分娩室・回復室で分娩経過や産後・出生直後の経過、医療従事者から産婦や新生児に対して提供されるケアの観察を行ったが、調査時間帯に分娩に至らなかった22名は除外し、経腟分娩に至った85名が分析の対象となった。ケアの質は、WHOが2018年に出版した正常出産ガイドライン「WHO recommendations: Intrapartum care for a positive childbirth experience」の推奨項目に照らし合わせながら評価を行った。 第2次医療機関である国立病院2施設の調査は2022年2~3月に実施し、【研究1】 産後女性を対象とした産科ケア満足度調査には75名が、【研究2】陣痛室・分娩室の直接観察による産科医療・ケアの質の評価には53名が調査に参加した。合計すると、ベースライン調査の参加者数は、【研究1】が計331名、【研究2】が138名である。
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Strategy for Future Research Activity |
エルサルバドルにおけるCOVID-19による入国規制は徐々に緩和されているが、感染予防の観点から当初計画していたペースで渡航はできていない。しかし、ZoomやWhatsApp等のオンライン・ツールを通じた現地とのコミュニケーションがスムーズにとれる環境が整ったこともあり、本研究者が日本にいる間の連携は以前よりも取れている。 COVID-19の影響も受け、倫理審査の承認に時間を要したことから、ベースライン調査までに時間がかかったことは、ベースライン調査とインパクト調査の間隔が、十分な期間をおけなかったということになる。しかし、ベースライン調査の結果を調査対象施設に共有し、【研究1】ではどのようなケアに褥婦が満足・不満足だったのか、【研究2】ではどのようなケアがWHOガイドラインの推奨項目に準じており・逸脱しているのかをフィードバックすることで、自らのケアを客観的に振り返る機会とし、それを改善するのに1年で何ができるかを共に考える機会となった。インパクト調査は国立女性病院では2022年5月、第2次医療機関4施設では2023年2月までにフィールド調査を終える予定である。
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Causes of Carryover |
ベースライン調査とインパクト調査の開始時期の遅れに伴い、調査員雇用や調査に掛かる費用を繰り越すこととなった。
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