2018 Fiscal Year Research-status Report
非光合成窒素固定微生物群の水田土壌における時空間分布と寄与率の解明
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18K18177
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤村 玲子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (10732547)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 土壌細菌細胞分画 / FISH法 / 水田土壌窒素固定活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水田土壌生態系における新規な窒素供給プロセスの解明を目指し、鉄還元細菌を含む水田下層土中の窒素固定微生物の時空間分布の変動、及び全窒素固定量に対する寄与率をFISH-NanoSIMS法を用いて明らかにすることを目的としている。H30年度は(1)土壌からの細菌細胞分画法の検討、および(2)FISH法の鉄還元細菌分離株および水田土壌細菌への適用を行った。 (1)土壌からの細菌細胞分画法の検討: 土壌細菌をFISH法などの蛍光観察による検出の際、土壌粒子や有機物による自家蛍光や染色阻害のためノイズや蛍光検出感度の低下が生じるため、土壌を直接観察するのは困難である。また、土壌構造の隙間に生息する細菌の観察には土壌構造の破壊が必要であり、前処理(土壌分散処理)が必要となる。本研究で計画しているFISH-NanoSIMS法では夾雑物のない状態での細胞観察が必要なため、土壌粒子が除去され、細胞のみが濃縮された状態が望ましい。従ってH30年度は土壌からの細菌細胞分画法の検討を行なった。 (2)FISH法の鉄還元細菌分離株および水田土壌細菌への適用: FISH法は蛍光色素のついたプローブを標的微生物の核酸に結合させ、蛍光顕微鏡下で観察する方法である。プローブの反応条件は様々であるため、標的微生物に対し条件検討が必要となる。また、土壌細菌細胞は分離菌株よりも染色が難しいとされるため、条件検討が必要となる。従って、H30年度は標的とする鉄還元細菌および土壌細菌への適用に向けたFISH法の条件検討を行なった。 (3)土壌の窒素固定活性条件検討: 水田土壌の窒素固定活性が高まる条件を検討した。本項目はNanoSIMS法での検出に向けた、鉄還元細菌に安定同位体窒素を取り込ませる土壌培養実験の布石となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)土壌からの細菌細胞分画法の検討: 土壌の分散に用いる機器、反応時間、分画方法等を、水田土壌を用いて検討した。細胞分画は密度勾配遠心分離法を適用した。分画した細胞の全細菌数をエチジウムブロマイド染色し、蛍光顕微鏡下で観察および計測した。回収率は数十%と低いため、分散時間を延長するなど課題が残る。 (2)FISH法の鉄還元細菌分離株および水田土壌細菌への適用: GeobacterおよびAnaeromyxobacter属細菌培養株を用いてFISH条件の検討を行なった。本年度は全細菌およびGeobacter属細菌のプローブで試験を行なった。細菌株での試験は成功した。一方、土壌の細菌細胞に対するFISH染色では蛍光が弱く観察が困難だったため、前処理およびFISH反応時間等を検討する必要がある。 (3)土壌の窒素固定活性条件検討: 水田土壌の窒素固定活性が高まる条件の検討を行なった。ある一定条件下で培養した土壌のアセチレン還元活性法による微生物の窒素固定活性能を分析した。暗所・湛水条件での培養が特に窒素固定活性を高めることが示され、鉄還元細菌を含む嫌気性細菌による窒素固定反応であることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
H31年度は下記(*)実験検討が完了の後、NanoSIMS分析に向け、安定同位体窒素を用いた土壌培養および土壌微生物による窒素取り込み率の確認を行う計画である。当初は水田土壌のモデル培養系の時系列モニタリングを計画していたが、予算と時間の都合上、複数の時系列試料を用いた土壌物理化学性のモニタリング、およびFISH-NanoSIMS分析は困難と考えられた。従って、本研究ではその前段階として、まずは窒素固定活性が高まった条件下の培養土壌を用いて鉄還元細菌の窒素取り込み率の証明を目指す。 *現在までの進捗状況における課題の解決に向けた実験検討 (1)細菌細胞回収率の向上に向けた条件検討が必要。土壌の分散処理の時間および回数を検討する。 (2)土壌の細菌細胞のFISH条件の検討。前処理として酵素処理や反応時間の延長など検討する。
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Causes of Carryover |
研究の進捗がやや遅れており、計画していた実験の一部を次年度で遂行することとなったため。実験に必要な試薬代として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)