2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K18247
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
友松 夕香 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (70814250)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アフリカ / 農業 / シアナッツ / 開発 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでの集めた史料を整理し、研究の構想を進めた。とくにシアナッツ(Vitellaria paradoxa)の栽培の歴史について研究を中心におこなった。西アフリカのサバンナ地域の農村部では、人びとはシアナッツの種子から抽出する油脂(シアバター)を食用したり、スキンケアに利用したりしてきた。しかし、1980年代ごろよりシアバターはカカオバターの代替としての利用が拡大し、シアナッツの木が自生するガーナ北部を含む西アフリカのサバンナ地域ではシアナッツは重要な輸出作物となった。しかし、シアナッツの木は、成長が非常に遅く、また接ぎ樹や挿し木などによる栽培種化が難しいサバンナの樹木として知られている。
本研究では、このシアナッツの木を、西アフリカのサバンナ地域の人びとがどのように育て、増やし、利用してきたのか、その一方で、植民地期から独立後を通じて、シアナッツの輸出作物としての価値に注目した行政官、農学者、政治家たちが、「生産性」や「効率性」、「科学」の考えを導入してシアナッツの単一栽培を推し進めようとしてきた歴史を追った。また、従来の繁殖技術ではなく遺伝子解析技術を用いてシアナッツの木の栽培種化を試みる近年の動きを分析することで、今後、地域においてシアナッツの栽培と利用をめぐる社会関係が大きく変わっていく可能性を検討した。
本内容については、2018年7月8日に開催された「食と農をめぐる歴史研究会」にて「サバンナの樹木を飼い馴らす?シアナッツの栽培種化をめぐるガーナ北部の近代史」と題して口頭で発表し、また論文の執筆の準備をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定では、本年度はガーナで資料収集とフィールドワークを実施することになっていた。しかし、米国のプリンストン大学の歴史学部で9月より1年間の訪問研究ができることになったため、研究計画を大幅に変更した。このため、研究内容を若干修正する必要が生じたが、研究は以下の点からおおむね順調に進展していると考えている。
まず、資料収集においては、プリンストン大学の図書館や連携大学の図書館を通じて、日本やガーナで入手できなかった植民地期のガーナ北部の重要な行政史料のいくつかを入手することができた。
また、プリンストン大学では、所属しているアフリカ史研究会だけではなく、歴史学部の討論の中心であるデイビスセンター、人文系の研究者による公開討論の場としてのHumanities Council、プリンストン国際地域研究所のセミナーやシンポジウムにも参加することで、アメリカの人文学で重要になっているテーマや議論の手法について学んだ。日本との比較の観点からすれば焦点はかなり異なるものの、これまでの研究をさらに理論的に進展させ、また広げるという点においては、非常に意義ある学びを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、1年目に分析を進めたシアナッツの論文を執筆する。また、7月末に帰国後、10月より4か月ほどガーナに渡航予定にしている。調査では、まず、綿花生産の歴史を分析するための資料の収集をおこなう。ガーナ北部での綿花の栽培は、独立後1960年代より徐々に拡大していった。1966年に設立したガーナ・コットン・ディベロップメント・ボード(GCDB)は、トラクターによる耕起サービス、種子、肥料、農薬をパッケージとして与えて収穫物の買取りを保証する契約生産の方式を導入し、定着させていった。しかし、1970~80年代を境に契約生産が伸び悩む。
本研究では、この背景として農作物の収穫労働と収穫物をめぐる男性と女性の生計関係と綿花の契約生産体制との齟齬を指摘する。また、構造調整政策による肥料価格の高騰後、配布されてきた肥料がどのようにトウモロコシ畑に流用されてきたのかを詳しく明らかにする。調査では、ガーナ・コットンカンパニーを訪問して文書の収集を試みると同時に聞き取り調査を実施する。
また、時間が許せば、稲作事業についての調査もおこないたい。ガーナ北部では、1950年代~1990年代のはじめに至るまで、複数のプロジェクトをとおして低地での天水による稲作が推進されてきた。しかし、地元で政治力をもつ首長とその親族たちが「耕作者」として支援の対象者となり、補助金をうけて土地や肥料、トラクターを手に入れるなどプロジェクトを私物化してきたこと、一般の人びとへの近代的な稲作技術の普及を阻んでいることが指摘されてきた。しかし、本研究では、多様な語りや新聞記事を収集することで、開発の先導者としての首長たちの特権的な地位をめぐる人びとの両義的な感情や言説の変遷を分析する。
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