2018 Fiscal Year Research-status Report
現代イランにおける長期的紛争介入構造をめぐる殉教概念の変容と政治言説化の研究
Project/Area Number |
18K18270
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
黒田 賢治 国立民族学博物館, 現代中東地域研究国立民族学博物館拠点, 特任助教 (00725161)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 紛争 / 記憶 / イラン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、隣地調査と文献調査を基軸とした研究活動を実施するとともに、小規模な研究会において率先して報告を行った。 より具体的に言うと、隣地調査についてはイランのテヘラン市の殉教者博物館(イラン・イラク戦争の戦没者を対象とした博物館)や共同墓地の殉教者区画で、博物館関係者や博物館を運営する財団関係者を対象に展示物の収集や展示の意図、さらには展示方法について聞き取り調査を行った。また共同墓地で殉教者区画に参る遺族や親類、さらには「参詣者」についての聞き取り調査を行った。他方、文献調査については、隣地調査時に収集したイラン・イラク戦争の回想録や殉教者の回想録の読解を進めた。さらにそれらの回想録がどのように消費されるのかという側面についても調査を進めた。 また【現在までの進捗状況】で述べるように博物館の網羅的調査も含め、その都度実施している本研究に関連した研究活動について報告を行い、進めている研究内容について漸次ブラッシュアップを図るとともに、研究の方向性を再帰的に検討することができた。さらに本研究の対象が一連のイラン社会特有の事象である一方で、それらをイスラーム特有の言説、あるいは分派特有の言説として本質主義的な理解を図るのではなく、あくまで社会的な諸アクターの関係性のなかで言説として構築されてきたということを分析しているということを明らかにするために、一般向けの新書および研究者を志す可能性のある市民に向けた書籍の刊行を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績において述べたように調査活動、研究成果発信ともに順調な研究の進捗状況にある。イランにおける隣地調査の実施や文献収集と資料分析に加え、研究活動の初年度ということもあり、基礎情報の整理について力点を置いて研究を進め、同時代的な問題との関係を検討するうえで不可欠なイラン国外の紛争介入をめぐるイランの外交関係について整理を行うとともに、殉教概念やイラン・イラク戦争についての先行研究の見直しを図りながら殉教概念の社会的再布置の基盤となる諸組織について整理した。 なかでも殉教概念の可視化にかかわる動的アクターである殉教者博物館について焦点を当てるとともに、それらが「自然」に設置される社会的文脈について検討を図るために、近年のイランにおける総体としての博物館の社会的文脈の変化について着目し、イラン国内に設置されてきた博物館施設(museという名称がつけられた施設)を網羅的に把握した。その結果、近年(2018年5月末)のイランでは建設中も含め、約500施設以上の博物館が設置されており、その大半は90年代後半以降に建設されたものであることが判明した。90年代後半以降という革命後のイラン国家にとって社会・政治的な変動と革命イデオロギーが希釈されていく期間に急増してきたことは、「あるべき」現在の変化を招くと同時に理想としての「過去」として超時間的に保存する施設/ヘテロトピア化させる施設として博物館が出現してきたと推測できることが明らかとなった。 以上のような進捗状況から、関連成果の発信という点で計画以上の進展があったと判断できることから、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、隣地調査の継続と収集済みの資料分析の継続を行うとともに、学術研究として発信させていくことを計画している。 本年度における隣地調査は、これまでの研究過程で構築してきた関係に根差しながら調査を実施してきたが、新たに構築した調査対象者との関係については必ずしも十分ではないという問題がある。特に調査対象にしている博物館においては、隣地調査時に責任者の交代があり、新たな運営体制となったこともあり、新たな運営メンバーとの関係構築の必要性が生まれており、次年度以降の調査においては漸次信頼関係を構築していきたい。また本年度の調査で収集した文献資料ならびに映像資料について、すべての資料の分析に取り組めているわけではないため、今後も継続して資料の分析にあたりたい。 これらの研究活動と並行させながら、本年度においては研究会など小規模の研究集会で行ってきた成果報告を見直し、研究成果を学会などの比較的大きな学術集会や論文等の文字媒体での刊行に着手し、漸次公開に向けた活動を行う。
|
Causes of Carryover |
本年度においては、臨地調査を実施する期間が当初の予定よりも若干少なくなったこと、また本務との兼ね合いで国内研究集会への参加が当初の予定よりも少なかったことにより当初予定していた旅費よりも少なくなった。また物品については、必要性上、通常の手続き外の手順での購入となってしまったため自費による支出としたため、予定よりも少なくなった。次年度においては、特に後者の物品購入の手続きに留意しながら研究計画を進めていく。
|