2019 Fiscal Year Research-status Report
現代イランにおける長期的紛争介入構造をめぐる殉教概念の変容と政治言説化の研究
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18K18270
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
黒田 賢治 国立民族学博物館, 現代中東地域研究国立民族学博物館拠点, 特任助教 (00725161)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 紛争 / イラン / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31/令和元年度においては、平成30年度の調査研究に基づく成果発信を行うとともに、現地イランの地方部の殉教者博物館をも対象に踏まえた聞き取り調査を実施した。また日本国内での本研究課題に関連した研究集会を他の研究事業と協力しながら開催し、本研究の将来的な発展に向けた準備に着手した。 具体的には、日本文化人類学会においては、イラン・イラク戦争の帰還志願兵による殉教者の取材活動について行ってきた調査に基づきながら、戦後のイランにおいて政治の場面で表出する情動と持続的支配構造との関係について研究報告を行った。また2020年年始にイランとアメリカとの緊張関係が急激に増すなかで表出した殉教言説を射程に入れた研究報告を所属機関内の研究集会で行った。 また12月半ばから年末にかけて、これまでテヘラン市を中心に行ってきた調査を、ガズヴィーン州、エスファハーン州ならびにマーザンダラーン州に拡大し、各地の殉教者博物館を中心に施設の運営の実施状況や、地方部での特色について焦点をあてた聞き取り調査を実施した。その結果、首都テヘランでの聖地防衛博物館などの施設が軍を含めた体制内の各関係機関によって展示等が拡充され、地方の大都市部では聖地防衛博物館が同様に整備されてきたことが明らかになった。また地方の中規模都市では殉教者博物館の整備が進められてきたものの、展示等については収集した遺品等を並べているだけでなく、実質的には博物館施設としては機能していないことが明らかになった。つまり地方中核都市と地方小規模都市では、殉教者をめぐって異なる事業が展開していることが明らかになった。 こうした研究課題に継続的に着手する一方で、今後本研究をイランという文脈だけでなく、第一段階として中東の他の社会やイスラームとの関係をめぐる共同研究へと発展させるための準備にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画2年目までの研究計画としては、おおむね順調に進展していると判断している。 研究計画初年度において進めた臨地調査を継続的に実施したうえで文献資料の読解を漸次進めるとともに、研究初年度の調査に基づいた研究報告を行った。文献資料として、昨年度同様にイラン・イラク戦争の回想録や殉教者の回想録の読解を進めたが、臨地調査において地方の殉教者博物館で作成しているリーフレットや伝記類の資料も収集し、また近年シリアでの紛争で殉教者となった人物たちの伝記といった新たな資料を収集し、読解を進めた。特に当初の研究計画に従い90年代における殉教概念の変容について検討し、直接の戦没者だけでなく、戦後にも不発弾による死者を殉教者として扱いながら概念的な拡大が起こってきたことが明らかになった。なお戦没者と記憶保存をめぐっては比較という視点から、日本における戦没者や各種平和資料館の展示等についての学術的な研究の把握も進め、研究成果の発信における日本社会への還元に向けた研究の位置づけについても模索している。 研究成果発信についていえば、平成30年度の実績報告書において、研究会など小規模の研究集会で行ってきた成果報告を見直し、研究成果を学会などの比較的大きな学術集会での口頭発表を行う計画を進めると前年度の点検に基づいた研究計画に従って成果発信を進めた。平成30年度には同年度に関して図書刊行物の出版を積極的に行った結果、成果発信が大きく進展した。平成31/令和元年度においては刊行物としての成果発信については、本事業に関連した成果刊行を行う代わりに、平成31/令和元年度の研究成果と合わせて統合的な研究成果を事業計画最終年度に刊行するための準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和二年度が研究計画の最終年度であることから、これまでの研究活動を総括しながら、研究成果全体を取りまとめた研究成果の発信に努めるとともに、総括することによって、付加的に検討すべき点を補足調査によって補完しつつ、今後より広角的な研究へと発展させていく方策について検討したい。 研究活動の総括として、平成30年度及び平成31/令和元年度の研究成果を統合し、また本年がイラン・イラク戦争および湾岸戦争から40年の節目を迎えるということもあり、書籍を念頭に学術書として一般公開の準備を進めていく。また昨年度に国内での研究集会で口頭発表を行ったが、令和二年度においては国際研究集会での口頭発表を行い国際的な成果発信を進めたい。 また平成31/令和元年度にいくつかの研究集会を他の研究事業と共同で開催し、国内外の研究者との積極的に交流し、今後の共同研究に向けて本研究についての意見交換を行うなどの準備を進めており、本年度においても本研究計画を持続的に発展させていく方策もまた模索する しかしながら、平成31/令和元年度末から世界的に新型コロナウイルスによる感染症の広がりによって、国内外での移動が困難になり、オンラインでの開催で対応する研究集会等がある一方で、開催を延期する研究集会がある。そのため研究成果発信ならびに補足調査に関しては、令和二年度が研究計画としては最終年度であるものの、次年度に繰越しをするなどの措置も視野に入れながら研究活動を推進していく。
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Causes of Carryover |
昨年度年末におこなった調査に加え、2月に短期調査を予定していたものの、2020年の年始におけるイランの政情不安につづき、新型コロナウイルス感染症拡大によって実施できなかったために次年度使用額が生じた。
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