2020 Fiscal Year Research-status Report
現代イランにおける長期的紛争介入構造をめぐる殉教概念の変容と政治言説化の研究
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18K18270
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
黒田 賢治 国立民族学博物館, 現代中東地域研究国立民族学博物館拠点, 特任助教 (00725161)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イラン / 殉教者 / シーア派 / 新型コロナウイルス感染症 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、前年度までの研究過程の可視化を目的とした成果発信とともに、文献調査を進めた。 前年度まで行ってきたフィールドワークに基づいた研究成果発信として、第36回日本中東学会年次大会における研究報告を行った。この報告では、イラン・イラク戦争をめぐる記憶の忘却と継承について、戦没者のアーカイヴスを個人の生業としても行ってきた人物に焦点を当て、記憶の忘却・継承がイラン社会における政治的な争点となってきたことを明らかにした。同報告に対してコメントとして記憶をめぐる忘却と継承に加え、「記憶の創造」の重要性が指摘されることで、今後の研究の深化を図っていくうえでの方向性が整理できた。またイラン・イラク戦争勃発から40年、湾岸危機から30年を記念して行われたシンポジウムでイランの視点からコメントを行うことで、イラン以外の地域での戦争の記憶をめぐる継承と断絶との視座を養うことができた。さらに、イラン・イラク戦争の従軍兵士や戦没者に関する研究の過程で調査してきた、体制右派のイランの空手団体に関する肉体鍛錬と精神修養についての論考を英語でまとめた。この論考では、近代日本の発明である武道の構造が、革命後のイランにおいても土着的文脈に応じて、体制のイデオロギーと結びついたイスラーム解釈のもとで特定の空手団体において展開しつつ、競技可能性という近代スポーツの形式を残してきたことを指摘した。 以上のような成果発信に加え、現地でのフィールドワークが困難となったなかで、これまでに収集した戦没者の遺書などのペルシア語文献についても読み進めるとともに、戦没者をめぐるを精神的アプローチのような霊的探究活動に関するペルシア語文献についても読み進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度、二年度目まで、国外の調査を順調に実施することができた。しかしながら本年度においては、新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初予定していた研究成果統合時のフォローアップのための調査の実施が行えなかっただけでなく、日本国内での社会的行動規範の制限のなかで必要となる文献を参照することができないなど、当初から想定していた国外での政治社会情勢の変動による研究活動計画の変更の想定を大きく超え、本研究計画にも影響が及ぼされた。そのため当初予定していた研究成果の統合についても、様々な制約があるなかで実施せざるをえず、最終的に当初の研究計画を1年間延長した。 とはいえ、本年度においては、昨年度までの研究活動を部分的にまとめ上げ、オンラインで開催された学会の研究大会において口頭発表を行った。またイランにおいて2020年2月末以降急激に新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで、対策の陣頭指揮に統合参謀本部が深くかかわっていっただけでなく、同感染症への対応が「ジハード(聖戦)」であるという言説が生み出されてきたことで新たな殉教者概念の拡張が表面化し、現在進行形の分析対象として加えた。さらに本年度においては、隣地調査の実施を断念する一方で、先行研究の把握をより一層深化させながら、これまでの研究成果の取りまとめを進め、次年度に統合的な研究成果として発信できるように準備を進めた。そこで次年度には、最終的な研究成果物の刊行を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、上記の通り研究計画を変更せずにはいられなかったため、当初の研究計画より最終年度を令和3年度として延長した。しかしながら次年度において、当初予定していた計画である国外での調査活動はもちろんのこと、国内での調査活動についても緊急事態宣言や地域外への移動の自粛などの制約があることから、基本的にはこれまでに収集したフィールド調査データとペルシア語の文献資料に基づいて可能な研究成果の統合を図るという計画に軌道修正し進めていきたい。その際、本研究全体の成果となる著書などの刊行物だけでなく、ペルシア語文献資料については日本語への翻訳などによる成果発信も視野に入れながら、より多くの研究者との研究協力のもとに進めていくことで、現在の様々な制約のある環境のなかでより良い研究活動を行っていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により、当初予定していた調査及び研究成果発信のための旅費の支出が行われなかったために、次年度使用額が生じた。次年度においては、研究成果発信の際に必要な文献資料の購入ならびに研究成果物への献本費用、またペルシア語文献資料の翻訳補助のための謝金等により使用する計画がある。
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Research Products
(6 results)