2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Social Mechanisms of Long-Term Conflict Intervention in Contemporary Iran
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18K18270
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
黒田 賢治 国立民族学博物館, 現代中東地域研究国立民族学博物館拠点, 特任助教 (00725161)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イラン / シーア派 / 殉教 / 記憶 / 言説 / 紛争 / 中東 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、これまでの研究成果を統合しイラン・イラク戦争の帰還兵に焦点をあてながら言説としての殉教の動態について把握した書籍を単著として刊行するとともに、人類学者によって指摘されてきた近年の周辺諸国への紛争に参加する若年層のなかに、殉教言説と宗教儀礼との関係が指摘されてきたことから、宗教儀礼をめぐるドキュメンタリー作品について視野を広げ、近年イランで刊行された宗教儀礼に関するドキュメンタリー作品の批評集の翻訳を進め、年度末に資料集として刊行した。 単著では、本研究計画の実施以前から進め2019年12月まで実施してきたイランでのフィールドワークに基づきながら、戦後の社会で生きる帰還兵と彼の周辺に集まる人々からイランの「軍」を支える人々について実証的に明らかにした。その際、殉教という言説の異相を示すとともに、近年のポピュラーカルチャーとの結びつきが強化されるなどエンターテインメント化についても論じた。「軍」などに近しい特定の立場の人々にとっては、時に自己の行為を正当化させる言説としても実践的に利用されてきたことも明らかにした。こうした紛争と日常をつなげる殉教言説であるものの、常に言説として国家が企図するように社会的な利用が行われるわけではなく、国家の都合主義や言説化後の実態との矛盾を孕んでいるという点も描いた。 また宗教儀礼に関するドキュメンタリーの批評集の翻訳でも、近年のイランではアーティストが活躍する領域としての宗教儀礼の存在やそれぞれの監督のスタイルや西洋のドキュメンタリー作品の表現上の影響といった点について確認できるとともに、革命後のイラン社会を理解する資料としてドキュメンタリー作品の位置づけが理解できた。
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