2018 Fiscal Year Research-status Report
「インテグリティ倫理学」創出に向けた実践的研究:高度科学技術社会のミニマム倫理学
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18K18435
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
宮島 光志 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (90229857)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 寿一 岩手医科大学, 教養教育センター, 教授 (00201963)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | インテグリティ / 統合性 / バルセロナ宣言 / 生命倫理 / 研究倫理 / 地域包括ケア / 人格の同一性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の宮島は学会誌で提題「高齢者の社会参加と地域社会の幸福度―フレイル予防の倫理学的考察」を公表し、地域高齢者が身体と心を支え合うための《4重の統合》、すなわち《心身の統合、人生の統合、社会との統合、自然との統合》の理念を提唱した。日本の地域包括ケアシステムは欧米の「統合型ケア(integrated care)」の考え方を継承しており、倫理学的には「規範的統合(normative integration)」の形成が重要である。地域包括ケアは地域社会の〈空間的な統合性〉を強調する考え方であり、地域高齢者の《社会との統合》、つまり社会参加を促している。またACP(Advance Care Planning)は個人の人生という〈時間的な統合性〉を強調する考え方であり、地域高齢者の《人生の統合》に重きを置く。そして「フレイル予防」は《心身の統合》と《社会との統合》を両輪とする活動であり、統合性の理念に照らして高く評価されると結論づけた。 研究分担者の遠藤は紀要論文「私たちの死、動物主義、ナラティブ同一性―インテグリティの観点から」をまとめて、医学的な観点から見た人の死の3基準(①心肺基準、②全脳基準、③高次脳基準)を哲学的に吟味検討した。そのさい「インテグリティ」概念が二重の意味で重要な役割を果たした。1つは①と②のどちらが妥当かを論じる論議において試金石になった「身体の主要な器官系の統合的な機能(integrated functioning)」という意味であり、この意味での「インテグリティ」からは②より①のほうが望ましい。もう1つは、人の死は身体の観点(動物主義:存在論)、語りの観点(ナラティブ:実践的関心)といった「多様な観点の統合」から理解されるという意味である。この意味での「インテグリティ」からすれば①に加えて②や③も有意味であるとして、多元論の方向を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、実施初年度であるにも関わらず、代表者と分担者がそれぞれ医療倫理・生命倫理という自身のフィールドに引き付けて、地域包括ケアと脳死問題という極めてアクチュアルな議論に照らして、「インテグリティ」概念を中心に据えた論考をまとめることができた。 さらに代表者は、講演「人間の統合性と医療の倫理」(第97回富山県耳鼻咽喉科臨床研究会、2018年12月20日)と講演「医療倫理のグローカルな展開に向けて―integrity原則と地域包括ケア」(富山県泌尿器科医会倫理講習会、2019年4月25日)を通じて、本研究課題に取り組む中で得られた新たな知見を社会に還元することができた。また、学内でも講演「研究倫理と当事者意識―Research Integrity をめぐるグローカルな動向」(平成31年度富山大学大学院医学薬学教育部、博士前期課程(薬科学専攻)研究倫理教育、2019年4月4日)を通じて、本研究の成果を教育に役立てることができた。 それら以外の具体的な実施内容としては、①「インテグリティ倫理学」構想の是非について、専門研究者に対して3度のインタビューを実施した。そのさいに、生命倫理と研究倫理に汎用可能な教科書を作成するために、既存の教科書をいかに換骨奪胎すべきか(どの項目をどう見直すかなど)についてコメントを得た。②英語圏を中心として最新の研究文献を整備した(とくに米国の学位論文など)。③日本学術振興会の研究交流会に参加して「高度科学技術社会の新局面」に関する新たな知見を得た(諸分野における最新の研究動向と解決すべき課題などについて)。④研究支援員を定期的に雇用して、研究成果をそのつど取りまとめる体制を整えた。以上の4項目を挙げることができる。 なお、隣接領域の研究動向についても、「スポーツ・インテグリティ」と「アニマル・インテグリティ」に関する各種情報を収集した。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に国内外の研究施設を訪問して「インテグリティ倫理学」構想について意見交換を行い、研究交流を図る。具体的には、ヨーロッパではスイス連邦(バーゼル大学とチューリヒ大学)およびドイツ連邦共和国(フライブルク大学)、そしてアジアではシンガポール(シンガポール国立大学)、できればさらに北米の大学についても、それぞれ(応用)倫理学関連の施設・部門を訪問する。国内では信州大学、東京大学、東京医科歯科大学、東北大学、北海道大学など、研究倫理と生命倫理の研究教育に実績のある諸大学を訪問して意見交換を行う。 第2に生命倫理と研究倫理に汎用可能な教材を試作し、研究代表者と分担者が担当する各種講義で試用する。そのさいには「インテグリティ」概念を中核に据えて説明の統合性と明快性に工夫を凝らし、試用後にはアンケートを取って受講者の感想や意見を聞き、教育効果を検証する。なお、広く国内の研究者から意見を聴取し、研究交流を図るために、仮称「インテグリティ倫理学フォーラム」を開催し、各地からゲストスピーカー(応用倫理学の研究者)を招聘する。また関連情報をそのつど整理して積極的に情報発信を行うことも検討したい(専用のHP開設するなど)。 第3に学会発表の場で研究成果を公表する。国内では日本生命倫理学会、日本医学哲学・倫理学会を予定するが、できれば海外の学会にも発表の機会を求めたい。また研究論文を執筆して、国内外の学会誌に投稿する。具体的には「バルセロナ宣言とユネスコ世界宣言におけるインテグリティ概念」「ヘルシンキ宣言におけるインテグリティ概念」「規範的統合」「H・ヨナスのインテグリティ概念」「E・H・エリクソンのインテグリティ概念」を取り上げる。 第4に隣接領域への越境として「スポーツ・インテグリティ」と「アニマル・インテグリティ」についても調査研究を行い、「インテグリティ倫理学」の裾野を広げたい。
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Causes of Carryover |
研究協力者の1名が異動(勤務医として就職)して、職務多忙のため研究会に参加できなかったことにより、予定していた旅費に未使用分が発生した。今年度は当該研究協力者とは別途に複数のゲストスピーカーを招聘するため、その未使用分を旅費として有効活用する。
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Research Products
(5 results)