2020 Fiscal Year Research-status Report
「インテグリティ倫理学」創出に向けた実践的研究:高度科学技術社会のミニマム倫理学
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18K18435
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
宮島 光志 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (90229857)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 寿一 岩手医科大学, 教養教育センター, 教授 (00201963)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | インテグリティ / 生命倫理 / 研究倫理 / プロフェッショナリズム / ヘルシンキ宣言 / 脆弱性 / 尊厳 / 人生の物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の宮島は、国内の各種学会で本研究課題と関連する研究成果を報告した。それらは「いまなぜインテグリティなのか?」(日本哲学会)「「倫理学の遠隔授業」と「遠隔授業の倫理学」―〈教育研究のインテグリティ〉を考える」(日本倫理学会)「桑木厳翼とカント哲学―「復興の哲學」(1924年)再読」(日本カント協会)および「インテグリティ倫理学の構想と展開」ほか1件(共に名古屋哲学研究会)である。それらの発表では「インテグリティ」概念の現代的な意義と可能性が多角的に吟味された。 宮島は医療倫理の教材作成にも従事し、『新版 薬学生のための医療倫理』(丸善出版)の共編者として企画立案と全項目の監修を行った。自身でも「医療人のプロフェッショナリズムと社会的責任」「レギュラトリーサイエンス」「ニュルンベルク綱領とヘルシンキ宣言」「再生医療」「脳科学と脳神経倫理学」の5項目を分担執筆し、折に触れて「インテグリティ」の重要性を説いた。研究分担者の遠藤も同書の「医薬品の適正使用とファーマシューティカル・ケア」「法令の構成と薬剤師関連法規」「新薬開発と遵守すべき基準」「利益相反・研究不正と臨床研究法」の4項目を分担執筆し、医薬品の研究開発を念頭に置いて、インテグリティ理念を掘り下げた。 年度末には研究協力者(盛永審一郎氏)を招いてオンラインで「第2回《インテグリティ倫理学》フォーラム」を開催した。宮島は「自らの「生涯」を見定めて生き抜くことの困難―盛永著『認知症患者安楽死裁判』に寄せて」と題する報告を行い、遠藤も旧稿「人格の同一性と事前指示」に即してR・ドゥオーキンのインテグリティ理念を再検討した。盛永氏との応答を通じて《人生の物語とインテグリティ》について考察を深めることができた。 最後に教育実践についても、宮島は「アカデミック・インテグリティ」を鍵概念として、研究倫理導入教育の弾力化を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は海外の関連施設を視察するほか、生命倫理ないし倫理教育分野の国際学会・全国学会などの場で研究成果を発表する予定であったが、全世界的なコロナ禍の影響が予想外に大きかったことにより、そうした活動がまったく実現できなかった。 具体的には、一方では勤務校ほかで遠隔授業の実施など日々の業務に忙殺されることになり、他方では海外渡航の制限および参加予定学会の開催自体が中止されるなどの事態も重なって、研究成果の全体的な取りまとめとその最終的な公表について、大幅な遅滞が生じた。 しかしながら、それら研究活動の大幅な制限というデメリットとは裏腹に、インターネットを活用した情報収集および図書などの資料購入に相応の時間と経費を投入できたことはメリットであり、結果的に研究内容の幅を広げ、考察をより深めることにつながった。 以上を総合的に判断して、本研究課題に係る昨年度の研究活動は「やや遅れている」と結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
全世界的なコロナ禍の収束が見通せない目下の状況では、欧米に渡航して関連施設を視察したり国際学会に参加して研究成果を発表したりすること(本研究課題の立案時点で念願していた活動)は、極めて困難であると思われる。そこで次善の策として、国際学会については、オンライン開催大会への参加も視野に収める。より現実的な方策として、国内の全国学会(日本生命倫理学会、日本医学哲学・倫理学会など)での研究発表を目標とする。 研究倫理と生命倫理を架橋する《インテグリティ倫理学》の教材作成という最終目標については、本務校の担当講義および関連する学内講習会などで活用できる「暫定版」を作成する。そして受講学生に対するアンケートを実施して、その使い勝手や改善点を具体的に把握して、改訂に向けた課題を明確にする。他方では、その暫定版を本研究課題に係るHP上で広く一般公開して、諸方面から意見を募りたい。 なお、海外旅費が不要になった場合には、それを追加資料(主に洋書)の購入に回す。そうすることで本務校の附属図書館に「〈integrity〉関連図書コレクション」を整備して、国内研究者の相互利用に供することを目指したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による海外渡航制限により、生命倫理関連施設(東南アジア、欧米)の現地視察および生命倫理・倫理教育関連の国際学会(欧米)への参加が実現しなかったため、海外旅費が繰り越された。なお、国内の現地調査と学会参加についても、事情は同じである。 令和3年度も同様の状況が続いた場合には、海外渡航を伴う研究活動は断念して、海外関連でもオンラインで対応可能な調査研究に切り替える。これは国内の研究活動にも妥当する。 そうした理由で海外・国内旅費が不要になった場合、それを関連資料(主に洋書)の追加購入に充てる。そのことによって、国内の研究者が《インテグリティ倫理学》関連図書を相互利用できる体制のさらなる拡充を目指す。
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Research Products
(6 results)