2019 Fiscal Year Research-status Report
音韻獲得の言語相対論の新展開:クリック子音獲得の事例研究
Project/Area Number |
18K18500
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中川 裕 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (70227750)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | コイサン / 音韻論 / 言語獲得 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の主要な調査活動は、新しい資料の収集のためのツールの開発と、それを用いた、フィールド調査であった。調査出張に先立ち、前年度の国際学会(WOCAL9)およびボツワナ大学における国際共同セミナーで得たフィードバックをもとに、幼児言語資料の収集法に改変を加え、52種類のクリック子音を含むグイ語の全ての子音を網羅する単語の図像カードのセットを作成した。このツールを用いて、ボツワナ共和国ハンシー県ニューカデ村において、新しい1次資料の拡大収集を行った。前年度のグイ語話者集落でのサーベイで選定してあった協力者候補から、4人の幼児(2歳男児、2歳女児、4歳男児、5歳女児)とその親の協力を得ることができた。 その結果、[クリック子音類]と[非クリック子音類]の間に認められる獲得順序、クリック子音類内部における2つの次元(13種類の系列と4種類の流入音)での獲得順序を解明するための資料が得られた。詳細な分析は進行中だが、現時点まででの知見を要約すると次のようになる:クリックと非クリックの間には、従来から指摘されてきた通りのパタンが確認できる(非クリック→クリックの順に獲得)。クリックの13系列の間における習得の順序は、昨年度の本研究の成果の一つであるNakagawa (2018)が提案した一般化が支持される。クリックの4流入音の間の獲得順序は、Nakagawa (2018)の一般化とは一致しない観察がなされた。現在、どのような一般化が最も妥当かを考察中である。 このプロジェクトで取り扱う言語素材は、(1)新たにフィールドワークで収集する資料と、(2)過去の調査で記録した資料(未分析録音)の2種類である。2019年度は(1)の資料収集に重点が置かれたが、(2)に関しても、前年度にデジタル化を終えた過去の録音について、その目録作成と、部分的な分析も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集の方法を改善し、それを使ったフィールド調査で、2歳から5歳までのグイ語モノリンガル幼児4人の資料を収集することができた。また、その資料の分析により、これまでの調査の成果をさらにより良いものとする可能性が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に観察した幼児たちのその後の発音発達を追跡調査すると同時に、協力者を追加して資料を拡大することを計画している。しかしながら、COVID-19危機の今後の様相によっては柔軟な計画変更を考えねばならず、ボツワナ大学の現地調査ホストとの情報交換や詳しい相談をしながら推進方策を講じる。
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Causes of Carryover |
研究代表者の個人研究費など他の財源を様々な目的に利用することができたこと、研究協力者が自身の研究費を用いて旅費の支出をすることができたこと、フィールドワークにおける現地での車での移動が、調査時期を同じくする他の研究者の借り受けたレンタカーに同乗させてもらうことで無料となったことなどにより、見込まれていた経費が大幅に節約できたため、次年度使用額が生じた。 これは、資料収集の質と量を向上させるために、次年度のフィールド調査の期間を予定よりも延長すること、また、関連資料のアーカイブ化をするための研究補助の謝金として有効活用する。
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Research Products
(26 results)