2019 Fiscal Year Research-status Report
「ながらワーカー」をめぐる個人と組織の統合可能性に関する研究
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18K18571
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
澤木 聖子 滋賀大学, 経済学部, 教授 (40301824)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 両立支援 / 多様な働き方 / 「ながらワーカー」の制約 / 健康経営 / がんサバイバー / 意識のバリアフリー化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、働くがん患者を示す「ながらワーカー」の実態 に焦点を当て、個人要因と組織行動のそれぞれの立場から現状の課題を抽出することを目的として開始された。 2019年度は、遅れている事例研究の調査項目の設計を補完する目的も兼ね、厚生労働省の「がん対策推進協議会」(2007年-2020年)の議事録や、国立がん研究センターによって実施された「がんと共に働く」プロジェクト(2014年-2019年)による報告資料を分析することにより、両立支援をめぐる働くがん患者個々人と組織における双方の立場から見た課題の抽出を行った。 国立がん研究センター(2018)の調査では、大企業・中小企業のいずれにおいても、自身ががんに罹患したら就労継続は難しいと考えている従業員が約3割にのぼることを示している。がんは私傷病であるため、自身から職場に伝えることは難しい現状が見えてくる。仮に、従業員が治療をしながら働くことが難しい場合は、傷病手当てなどの公的制度を活用して一時休職して治療に専念しても、職場復帰への不安は残る。同調査結果によれば、「がんにかかった場合でも、治ったら職場に復帰できる」について、全体では43.3%(がん患者当事者や働くがん患者への意識が高いサポート会員は58.8%)であり、日本企業全体での復職支援をめぐる人的資源管理上の整備が求められていると考えられる。またこの調査では、「現在の日本社会では、働きたいと思うがん患者を受け入れる職場環境になっている」という質問項目に対して75.7%が「そう 思わない」と回答している。働く個人と企業の当事者間のみならず、働くことに様々な私的制約がある人々(疾病・障害・介護・育児など)に対する社会の意識改革が必要であることも示唆される。 今年度は、以上のような先行調査の報告事例や文献研究を中心に、本調査のための理論的枠組みの修正作業を行うにとどまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、所属大学において、やむを得ず総務企画担当の副学部長職を拝命しました。学部改革構想、内部質保証、外部評価などへの対応が重なり、慣れない学内行政職に四苦八苦し、本研究課題のために予定していた学外での調査研究や学会報告を実施することができませんでした。
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Strategy for Future Research Activity |
育児や介護と同様に、極 めて個人的要因と見なされてきたがん疾病患者の仕事と治療の両立支援が、有用な人的資源の活用へと結びつくための条件につ いて探索する。 具体的には、厚生労働省の「仕事と治療の両立支援」(2020)「働き方改革実行計画」(2017)、「第3期がん対策推進基本方針」(2018)において言及されている治療と仕事の両立支援や社会的サポート体制の仕組みづくりの内容に基づき、働くがん患者と企業の人事担当者を対象に、主に次の点についてヒアリングを実施する。1)新型コロナウイルス感染症対策以降に普及したリモートワークや在宅勤務などの適用状況、2)育児・介護・障害・高齢など多様な制約下で働く従業員と疾病(がん)治療中の従業員に対する人的資源管理施策や意識の異同、3)がんサバイバーの人材活用における課題。また行政、民間の関連機関を対象に、働く疾病者をめぐる当該事実に対する偏見の諸相や正しい知識、啓蒙教育の取り組み事例や社会課題についても聴き取りを実施したい。組織で働くがんサバイバー=「ながらワーカー」の職務意識や自己アイデンティテ ィを明らかにするのと同時に、雇用する組織が、彼・彼女らを組織の人的資源としてどのように位置づけて遇しているかの実態 を明らかにすることを通じて、疾病や障がいのある個々人の雇用機会をめぐる意識のバリアフリーかを目指した個人と社会の統合モデルの構築を目標としたい。
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Causes of Carryover |
2018年度、2019年度の研究計画が少しずつ遅れ、研究費においても当初の計画通りに使用することができませんでした。 次年度は、1)専門誌、文献やPC関連の消耗品等物品費、2)調査及び研究成果報のための国内旅費、3)資料整理やデータ分析に関わる研究補助者への人件費・謝金、4)専門知識享受のためのセミナー参加費や会議室利用料等に使用を予定しています。
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