2018 Fiscal Year Research-status Report
Communication of insects through body surface lipids: proposal of a new mechanism employing mechanoreceptors
Project/Area Number |
18K19214
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
金子 文俊 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (70214468)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
片桐 千仭 株式会社数理設計研究所, その他部局等, 研究員(移行) (90002245)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 体表脂質 / 赤外分光法 / コオロギ |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫のクチクラ最表面部には、体内からの水分の蒸散を抑制するための薄い(0.1-1μm程度)脂質層が存在している。この体表に分布する脂質は外部環境に適応するためのバリア機能以外にも重要な役割があり、昆虫は体表脂質組成の違いを利用し様々な情報交換を行っている。 これまで体表脂質を利用するコミュニケーション機構は、化学受容器で表脂質の化学種の違いを判別して情報収集するプロ セスと推測されてきたが、私たちは触覚上の機械的受容器により、脂質組成の違いに伴う組織構造や物性の変化を検知する別の機構も存在すると予測している。 本年度は、雌雄間で体表脂質の組成が異なるという報告があるクロコオロギに注目して研究を進めた。コオロギの体表脂質の状態を前翅や脚の部分で、赤外ATR法でその場観察した。またヘキサンで抽出し精製した体表脂質試料を利用した赤外スペクトル測定も並行して進めた。これにより雄の体表脂質には確かに、孤立した二重結合をもつ炭化水素が含まれているが、雌の脂質には不飽和炭化水素が含まれていないこと、さらにこの組成の違いを反映して雄の体表脂質の方がコンフォーメーション的により多くの乱れを含んでいることを見いだした。 この体表脂質の組成や構造の違いが体表脂質の機械的な性質に反映されるかを確認するために、原子間力走査顕微鏡を利用して前翅の表面における摩擦力測定を行った。そしてコオロギの雌雄間で、系統的な違いがある可能性があるという結果を得た。現在これを確認する実験の準備を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料の一つであるコオロギについては、体表脂質の赤外分光法による研究を進めている。これについては現在、前翅などを赤外全反射法を利用して直接観察する手法、抽出した体表脂質を利用してより詳細に検討する手法の両面で進めている。またより詳しく体表脂質の情報を得るために、放射光の赤外領域を利用する顕微赤外ATR法を利用して研究を行うためにSPring-8にビームタイムを申請し、24時間のビームタイムを利用した実験が認められた。これを4月中に行う予定である。また走査原子間力顕微鏡を利用した研究にも着手し、現在研究を進めている段階である。 また赤外分光と原子間力顕微鏡に加えて、熱測定と共焦点顕微鏡も利用し、体表脂質の状態についてより詳しく検討するための準備も進めている。 比較のために進めているワモンゴキブリを用いた研究の一部は既に論文としてまとめた(J. Phys. Chem.Bにおいて出版)。また関東昆虫学研究会、関西昆虫学研究会、日本化学会において実験結果を発表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)4月中に実施予定であるSPring-8の赤外ビームラインを利用した顕微赤外分光実験の結果を検討し、その有効性が認められれば5月にビームタイムを申請し、本年度後半において再度実験を行う予定である。 (2)放射光を利用したX線小角広角散乱同時測定による実験を行うために、SPring-8、PFに課題申請を5月に行い、本年度後半に実験を行う。この申請が認められない場合には、あいちシンクロトロン光センターを利用した実験を計画する。 (3)原子間力顕微鏡を利用した実験については、現在室温における結果の再現性の確認を行っている。この手法の有効性の確認がとれれば、温度条件を変えた測定を行うべく準備を進める。 (4)高感度DSCを利用して体表脂質の融解挙動を調べ、その体表脂質の固体相・液体相の分布について熱データを用いての検討を行う。これについてコオロギの雌雄間で有意な差が生じるかどうかについて検討する。この結果を参考にして、特に変化が生じると予測される温度領域において共焦点顕微鏡による観察を進める。 (5)コオロギの触覚に、体表脂質の組成と量が異なる前翅を接触させて、コオロギの行動に変化が見られるかどうかについて調べる。
|
Causes of Carryover |
30年度は、既存の設備、備品、消耗品を利用した研究が主体であり、学会発表の会場も近く旅費を必要としなかった。また当初赤外分光用の備品を購入予定であったが、放射光の赤外領域を利用する顕微赤外分光法を活用することに方針が変わった。このために30年度は大きな備品の購入は見送り、次年度の研究に必要な物品へ経費を回すことを計画した。その一方で、走査顕微鏡観察、赤外分光測定、共焦点顕微鏡を利用した研究において、示差熱容量測定の併用の有効性が予測された。 31年度には、外部施設を利用した実験(放射光を利用した赤外分光、X線散乱)のための経費(施設使用料、旅費、消耗品費など)、示差熱容量測定装置の購入および運用費(実験補佐員雇用費)、試薬(高純度炭化水素)、試料昆虫購入費、打ち合わせおよび学会発表のための旅費、に使用する予定である。
|
Research Products
(6 results)