2019 Fiscal Year Research-status Report
水死体の鑑別診断に簡便・迅速に対応するための新規スクリーニング検査法の開発
Project/Area Number |
18K19687
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
園田 愛 宮崎大学, 医学部, 助手 (10762122)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
新川 慶明 宮崎大学, 医学部, 助教 (40625836)
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 法医学 / 溺死の診断 / 水棲細菌 / LAMP法 / DNA抽出 / 環境水 |
Outline of Annual Research Achievements |
水辺で発見される変死体には犯罪に関わるものがあり,慎重な診断が求められている.一般に溺死の診断は解剖によって得られる所見に加えて,各種検査所見(死後CT検査,プランクトン検査,胸腔液電解質検査)や現場環境,病歴や診療記録,警察の捜査等を考慮し総合的に判断されている。しかし診断に苦慮する場合も多く,新しい検査法の確立は急務である。そこで私たちは水棲細菌を指標とした新しい診断法(LAMP法)の確立に取り組んだ。溺れた際,水の吸引と共に水棲細菌は肺から血管内に入りその一部が血液中で優占的に増殖する。そして数の増えた種のみが検出可能となる。しかし,対照水として採取された環境水(海,河川,湖沼など)においては特定の水棲細菌が優占的に存在していることは殆どなく数が少ないため,そのDNAを直接検出することは容易ではない。そこで,現場水から効果的に水棲細菌を検出する方法を検討した。その結果,1~2Lの量の現場水をメンブレンフィルターでろ過して濃縮することが重要であり,また環境水中にはDNA合成を阻害する物質(フミン酸,フルボ酸,タンニンなど)も含まれていることから,これを除去するカラム処理が有効であることも示された。さらに指標とする水棲細菌DNAの抽出には物理的粉砕処理は必要のないことも示された。次に臓器試料や血液試料からワンステップでゲノムDNAを抽出・精製する簡易抽出法を検討したが,検出感度が充分に向上せず適さないことが示された。また特異性についても新に細菌8種(Lactobacillus,Enterococcus,Listeriaなど)や酵母2種(Saccharomyces,Cryptococcus),珪藻10種(Aulacoseira,Nitzschia,Chaetocerosなど)に対して追加で確認を行い,偽陽性を生じないことが示された。最新の条件で,実際の実務検査において応用した結果,これまでのところ従来の珪藻検査の代用としても充分に役立つことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果から,これまで検出することが困難であった現場水からも水棲細菌を高頻度に検出することが可能となった。これにより実務検査におけるLAMP法の利用価値をさらに高めることができた。また,水棲細菌の検出においてワンステップ簡易抽出法は適さないことが示された。ワンステップ抽出法でも単にヒトのDNAを抽出するだけなら,組織の一部が溶解すればよく,充分にヒトDNAが得られる。しかし,組織の中に僅かに含まれる水棲細菌のDNAを抽出する目的のためには,組織の大部分を完全に溶解しさらに細菌も溶解しなければならず,本検査の目的には適さないと考えられた。実際,QIAcubeを用いたDNA自動抽出法と比較して,ワンステップ簡易抽出法では抽出時間の短さや費用の面で勝っているものの,検出感度においては明らかに低下した。また今年度の研究で我々のLAMP法の特異性の高さも追加確認できた。以上のようにこれまで解決できなかった課題を今年度の研究で改善でき,また診断精度のさらなる向上も行えたことにより今後の進展に繋がる重要な成果が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえて,最終年度は実際の解剖例に対して広く検査を試みその有効性を確立する。なお,全例で従来の珪藻検査も実施し,比較検討して新しい検査法の有効性を明確に示したい。また,腐敗が高度に進行していくと細菌はやがて死にDNAも分解していくことが予想されるため,高度な腐乱死体に対しての実用性も検証していく。 LAMP法は高価な機器を必要としないものの,6つの特異的なDNA配列を識別するように大小4つのPrimerを設計する必要があり,その開発は非常に困難である。しかし溺死の診断において,水棲細菌以外の水棲微生物(珪藻やラン藻)をLAMP法で簡単に検出する方法は未だ確立しておらず,引き続きその確立にも挑戦し本検査法をさらに守備範囲の広い検査法へと発展させたい。
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Causes of Carryover |
慢性的な人手不足により解剖・検査業務等に従事する時間が増え研究に充てる時間が圧迫されたため次年度使用額が生じたが,一方で遂行できた実験自体は順調に結果が得られて予備実験や再実験等を行う回数が抑えられ当該予算を節約できた。またキャンペーンなどの期間に合わせて計画的に購入したり,一括購入等で価格交渉にも努めた。これらの理由から次年度使用が生じたが,これは来年度に行う藻類を検出するためのプライマー設計に係わる予算に充てると共に,簡易迅速診断に必要となる物品費として試薬類(Loopamp DNA増幅試薬キット,Loopamp反応チューブ,DNA抽出・精製キットなど)にあてる予定であり,これによりさらに詳細な検討や再現性の検証等が可能となり症例数も増やせるため実務での検査法の確立に役立つと考えている。
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