2018 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of methods of measurement and analyses of theory-based social class classification for health research in Japan
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18K19699
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
堤 明純 北里大学, 医学部, 教授 (10289366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神林 博史 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20344640)
小塩 隆士 一橋大学, 経済研究所, 教授 (50268132)
本庄 かおり 大阪医科大学, 医学部, 教授 (60448032)
可知 悠子 北里大学, 医学部, 講師 (10579337)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 健康格差 / 社会階層 / ライフコース / ストレス / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究関連分野の第一人者4名を招いた研究会で、階層形成と健康の因果論(橋本英樹先生)、社会学における職業的地位尺度の開発(藤原翔先生)、首都圏調査の結果(橋本健二先生)、時間の貧困(浦川邦夫先生)に関するレクチャーとディスカッションを行った。長い研究の歴史があるものの社会的地位の測定と理論付けが研究領域間で十分に合意されていない(変数の取り扱い方が異なる)点、アウトカム毎に曝露要因が異なる可能性といった解析上の課題、職業威信スコアや社会経済指標(SEI:職業の学歴水準と職業の所得水準)の比較研究の成果(職業威信スコア導入の意義は少ない可能性)、階級論の基礎と現代日本で課題となりつつあるアンダークラスの階層、生活時間の貧困が健康問題につながる可能性等の視点を得た。 以上の理論的な検討を基に、研究班員がアクセス可能なデータベースを用いて主たる専門分野の課題について実証作業を実施した。2015年「社会階層と社会移動:SSM」調査データから20歳~59歳の有職者に限定(N=3798)した解析で、社会経済指標(JSEI)、社会的地位指標(JSSI)、SSM職業威信スコア(1995年版)は、主観的健康および精神的健康に対してほとんど影響しないことを確認した。一方で、主観的社会的地位(職業以外の要素も含む総合的な指標)は、因果推論に難があるものの、健康指標と関連が強いこと(神林)、国民生活基礎調査を用いた解析で、女性は収入と教育歴の両方が自覚的不健康感に関わるが、男性では収入のみが関連するというジェンダー差(本庄)、中高年者縦断調査の解析で、社会参加が高齢期のNon Communicable Diseases (NCD)の発症と関連する可能性(小塩)、労働者のパネルデータを用いた解析で、教育、収入、職業の複合貧困指標が一部NCDの有病率と関連すること(堤)、等を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように、第一人者とのディスカッションによる理論ベースの検討と実証的なシミュレーションを組み合わせることで研究の方向性を絞り込んだ。当初研究計画に挙げた、わが国の健康格差研究を進めるための社会階層に関する(1)新しい指標の提案、(2)指標の統合の提案、(3)新しい指標の測定法の提案、(4)新しい分析法の提案、(5)実証的研究の企画の目標を達成するため、研究班員が、JHOPE研究(堤)、国民生活基礎調査(本庄)、2015年SSM調査(神林)、中高年者縦断調査(小塩)等、それぞれの担当の既存データベースを用いたシミュレーションと分析を進め、(1)(2)については、多元的貧困(Multidimensional poverty)、および、主観的社会的地位の有用性が認識され、測定法や分析法の検討に入ろうとしている。 分析法については、世代内での横断的な解析にとどまらず、階層が次世代に及ぼす影響(人生早期の社会階層指標の健康影響の検討)や、あるライフステージにおける曝露が次のライフステージの健康に影響する(職業に関する社会階層指標が退職後や老年期の健康に及ぼす影響の検討)ことの検証に範囲を広げ、ライフコースの視点をもった分析方法の検討を始めた。 当初計画の一部修正:第一人者によるレクチャーと教示を基にした研究班会議で検討の結果、当該研究課題について、新奇かつ有用な意見を聴取できる専門家が十分に存在しない等の理由で、専門家集団を対象としたデルファイ法による調査は見合わせ、引き続き、関連の第一人者によるインプットとディスカッションによる検討を行うこととした。実証作業については、アウトカム毎に曝露要因が異なる可能性が認識されたため、新たに医学分野の指標として、生物学的指標(アルドステロン、インスリン抵抗性、炎症反応等)をアウトカムとして用いた社会階層指標の検討をはじめた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、関連分野の第一人者との研究会を開催して理論の整理を進め、この作業の過程で発生する仮説を研究班員がアクセスできるデータベースで検証する。初年度の検討を受けて、検討するポピュレーションの対象と分析の範囲を広げる。招聘する第一人者とそのテーマしては、阿部彩先生による子どもの貧困、福田吉治先生による理論に基づく職業階層指標の開発、近藤尚己先生による社会格差対策、藤原武男先生によるライフコースアプローチを予定している(前者2先生による研究会は既に企画済)。実証作業については、国民健康基礎調査を用いたジェンダー差の解析(本庄)に加え、子どもの貧困と主観的健康観に関する解析(可知)、中高年者縦断調査を用いた健康の変化の度合いをアウトカムとした検討(小塩)、職業以外の情報を加味した社会的地位指標(Savage et al. 2013)の探索と社会的地位の測定に関する文献レビュー(神林)、生物学的指標(アルドステロン、インスリン抵抗性、炎症反応等のストレスバイオマーカー)をアウトカムとした労働者における指標の検討を新たに開始、もしくは、継続する(堤)。 分析方法の検討に当たっては、小児期と老年期の健康課題を加え、ライフコースにわたる分析方法を検討する。また、社会階層指標が、健康に影響する媒介要因(例:職業関連の指標であれば、身体的負荷度、危険への曝露、ストレス等)とメカニズムをあらかじめ想定した分析方法を検討する。 ライフコースにまたがる疫学方法論の確立を模索し、研究代表者が主催する日本ストレス学会でシンポジウムを企画し、研究の必要性、関連課題の周知を図るとともに、大型研究費研究計画を策定するためのネットワークを形成する。研究を総括し、新たに社会階層の健康影響を明らかにするための大規模長期追跡調査に関する共同研究の計画を企画立案し、科学研究費助成事業などに応募する。
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Causes of Carryover |
研究班会議の検討によって新たに実施することとなった生物学的指標(アルドステロン、インスリン抵抗性、炎症反応等のストレスバイオマーカー)の測定が年度後半にずれ込んだことから、未検査の支出分が次年度使用額として反映されたが、すでに初年度末にかけて検査が進んでおり、次年度早期に支出される予定である。
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