2018 Fiscal Year Research-status Report
血管新生と神経新生の融合による三次元脳組織工学の開拓
Project/Area Number |
18K19937
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
須藤 亮 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (20407141)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 血管新生 / 神経新生 / 三次元培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳は神経科学などの基礎研究は進んでいるが、組織工学は未開拓である。従来研究では、二次元培養や脳オルガノイド培養が行われている。二次元培養は手法が簡便であるが単一細胞レベルに着目した研究であり、立体組織を構築することはできない。一方、オルガノイド培養は組織レベルに着目した三次元の浮遊細胞塊であるため微小培養環境が制御できない。以上のように従来研究では三次元・多細胞レベルの研究が欠如している。このギャップを解消することで、【神経科学(単一細胞レベル)→三次元脳組織工学(多細胞レベル)→脳オルガノイド培養(組織レベル)】のシームレスな脳組織工学の学問体系を創出し、基礎研究から再生医療・創薬研究へ展開することが期待できる。そこで、本研究ではマイクロ流体デバイスを用いて、脳の三次元ユニット構造を再現する培養モデルを構築し、神経・血管組織の機能を解析することを目的とした。 平成30年度は、脳の発生段階を模擬した脳血管新生モデルを作製することに着目し、以下の研究成果を得た。 ①マイクロ流体デバイスの設計と作製: フォトリソグラフィ法によってマイクロ流体流路パターンの鋳型を作製し、これを用いてマイクロ流体デバイスを作製した。次に、マイクロ流路からヒト神経幹細胞を導入し、マイクロ流体デバイスにおいてヒト神経幹細胞が培養できることを確認した。 ②神経幹細胞から異なる分化段階の細胞を誘導: 三次元神経・血管ユニットを構築するためには、血管と組み合わせる神経幹細胞の分化状態が重要となる。脳の発生段階において神経幹細胞は、神経前駆細胞・ニューロン・アストロサイトに分化する。そこで、神経幹細胞の分化誘導実験を行い、これらの細胞のマーカーを発現する細胞が得られることを確認した。 ③神経幹細胞由来分化細胞と脳血管新生モデルの誘導: マイクロ流体デバイスを用いて②で誘導した神経系細胞と血管系細胞の共培養を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、脳の発生段階を模擬した脳血管新生モデルを作製することを中心に研究を進めたが、培養プラットフォームとなるマイクロ流体デバイスを作製し、実際に神経幹細胞の三次元培養を行うことが可能になっている。また、ヒト神経幹細胞の分化誘導実験を行い、ニューロンやアストロサイトのマーカータンパクを発現することを免疫蛍光染色によって確認済みである。さらに、これらの神経系細胞と血管系細胞を合わせた培養を開始したことから、平成30年度の研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度において検討を進めた脳の発生段階を模擬した脳血管新生モデルを用いて、今後の研究では三次元神経・血管ユニットの構築や、より高次な細胞機能の解析を行う。具体的には、以下の項目について取り組む。 ①三次元神経・血管ユニットの構築: 特定の分化段階の神経幹細胞と脳血管培養モデルを組み合わせることによって三次元神経・血管ユニットを構築する培養条件を検討する。その際、三次元神経・血管ユニットの特徴として「神経幹細胞による三次元ネットワークの形成」「血管系細胞による内腔を有する血管ネットワークの形成」「アストロサイトの直接接触による脳血管と神経ネットワークの仲介」に着目して評価する。 ②薬剤刺激による細胞間相互作用の解析: 三次元神経・血管ユニットは、神経ネットワークがアストロサイトを介して血管に接続している構造を特徴とする。そこで、血管に作用させた薬剤がアストロサイトを仲介して最終的に神経ネットワークに作用するような組織レベルの機能を解析することが期待される。 ③血管透過性の評価: 三次元神経・血管ユニットでは、脳血管に特異的な血管透過性(血液脳関門)が再現されている可能性が高い。そこで、血管内腔側に蛍光デキストランを充填し、血管透過性を評価する。この実験では血管内皮細胞の起源による違いにも着目する。また、血液脳関門の機能維持に重要なタイト結合タンパク質などの発現について評価する。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた学会発表に要する出張旅費を節約することができたため次年度使用額が生じた。今後の研究において構築した三次元神経・血管ユニット構造の三次元的な解析を行う予定であるが、そのためには免疫蛍光染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光観察しなければならない。これらの実験には1次抗体や2次抗体などが必要となる。そこで、これらの抗体・蛍光試薬の購入に次年度使用額を充当する。
|
Research Products
(9 results)