2021 Fiscal Year Research-status Report
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18KK0203
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
稲垣 祐司 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (50387958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石谷 佳之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究プログラム, 特任研究員 (60772043)
中山 卓郎 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (70583508)
矢吹 彬憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), グループリーダー (20711104)
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Project Period (FY) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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Keywords | 原生生物-細菌共生系 / 細胞内共生 / 生物多様性 / 海洋生態系 / 生態地理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はフランス Villefranche-sur-Merでの調査を予定していたが、COVID-19パンデミックのため実施することはできなかった。11月13-18日に、下田におけるサンプリング調査を行い、シアノバクテリアを共生させる渦鞭毛藻の採集を行った。 石谷と稲垣は、引き続き日本産有孔虫Ammonia beccarii細胞中の共生細菌ゲノムのデータ解析を行った。2020年度に行ったin situハイブリダイゼーションの結果をもとに、有孔虫細胞内の共生細菌のゲノム配列を特定した。2020年度に行った有孔虫Allogromia sp.のRNAシーケンスデータ、放散虫Dictyocoryne profundaおよびD. truncatumから分離した共生細菌から増幅したゲノムは配列データの解析を行った。一方時間不足で、2020年度に確立した有孔虫Allogromia laticollarisおよびGloborotalia inflataの培養株、有孔虫および放散虫細胞内に共生するシアノバクテリア2種からデータを取ることはできなかったが、実験室内で維持している。 中山は、2021年11月に下田で採取した渦鞭毛藻Histioneis sp.から共生シアノバクテリアを単離し、ゲノムを増幅しシーケンスを行った。同時に渦鞭毛藻Citharistes regiusを数細胞発見・単離した。単離したCitharistes regius細胞からゲノムDNAを抽出・増幅、シーケンスすることに成功した。 矢吹はアンキロモナスNutomonas sp.を江ノ島水族館の水槽から単離し、実験室内培養株を確立した。この培養株からゲノムDNAおよび全RNAサンプルを抽出し、ゲノムデータとトランスクリプトームデータを取得した。解析したNutomonas sp.のゲノムデータ中には細菌ゲノム断片が発見されたが、この細菌ゲノム配列は海洋環境からのメタゲノムデータから発見されたDadabacteriaと極めて近いことが分かった。またこのDadabacteria様細菌ゲノムは縮退していると考えられることから、Nutomonas sp.の細胞内にDadabacteria共生体が存在する可能性が高いことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたロスコフ海洋研究所(フランス)・Columban de Vargas博士とのVillefranche-sur-Mer(フランス)における共同サンプリング調査は、いまだにCOVID-19パンデミックにより実施できていない。しかし下田臨海実験センターを利用したサンプリング調査により各種渦鞭毛藻を単離することができ、これらの共生細菌ゲノムデータを取得できたことは大きな成果である。特に渦鞭毛藻Citharistes regiusの共生細菌データを解析したところ、これまで解析した渦鞭毛藻共生細菌とは大きく異なることが分かった。宿主(渦鞭毛藻)と共生細菌の進化を考えるうえで重要なデータとなると期待される。有孔虫、放散虫の実験室内培養株、有孔虫および放散虫細胞内に共生するシアノバクテリア2種を実験室内で維持培養しており、今後のシーケンス解析が待たれる。 これまでアンキロモナス類の細胞内に共生細菌が生息しているという報告はない。今回Nutomonas sp.のゲノムデータから、Dadabacteria様ゲノムが検出できた。Dadabacteriaはメタゲノムデータのみで認知されている細菌であり、その実態は不明のままである。我々のデータはDadabacteriaの実態を解明するうえで重要な知見を提供すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の感染状況によるが、Villefranche-sur-Mer(フランス)におけるサンプリング調査を目指し、ロスコフ海洋研究所チームと調査時期をすり合わせる。共同でのサンプリング調査可能な時期が研究対象生物種の出現時期と合致しない場合、調査はさらに延期せざるを得ない。2022年度は沖縄における放散虫サンプリングの実施を目指す。2021年度に引き続き、渦鞭毛藻が発生する秋以降に筑波大学下田臨海実験センターを起点としたサンプリング調査を再度実施する。 昨年度から継続している渦鞭毛藻1種の共生細菌ゲノム解析を終え、英文論文の投稿を目指す。2021年度に取得したデータを追加することで、共生細菌ゲノムをより正確に復元し、共生細菌ゲノムにどの程度の縮小圧がかかっているかを推測する。この結果から、共生細菌のどのような代謝が渦鞭毛藻-細菌間の共生関係に貢献しているか、共生細菌が宿主に何を依存しているのか等を議論する。 現在解析しているアンキロモナス類の細胞内には、実態が分からないがゲノムデータだけ解読された細菌が共生している可能性が高いことが分かった。今後さらに共生細菌のゲノム配列を解析することでゲノムを解読し、どの程度縮退しているか、共生細菌は宿主にどのような形で依存しているかを解明する。またこれまでにシーケンスされた系統的に近縁な細菌のゲノムデータと比較し、この実態がはっきりしない細菌系統の全容を解明する。 これまでに取得した有孔虫1種と放散虫2種の実験室内培養株のシーケンスデータ内に含まれる共生細菌ゲノムデータを整備し、その多様性、宿主への依存関係、さらには異なる複数の共生細菌間での相互依存関係の有無等を解明する。また2021年にシーケンス解析できなかった有孔虫と放散虫、またそれらの共生細菌のシーケンス解析を目指す。
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Causes of Carryover |
フランスを含めた全世界でのCOVID-19パンデミックのため、2021年度の調査も実施できなかった。このサンプリング調査費とそれに関連した経費を2022年度に持ち越すことになった。 現在のところCOVID-19感染状況に伴う渡航規制などが解除され、フランスでのサンプリング調査が可能になるのが何時になるのか不明である。しかし、繰越した予算は2022年度以降に行うサンプリング調査の費用に充てる予定である。
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Research Products
(9 results)