2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞内亜鉛とTGF-βシグナル制御による好酸球性副鼻腔炎の新規治療法の開発
Project/Area Number |
18KK0444
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 正宣 北海道大学, 医学研究院, 助教 (70455658)
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Project Period (FY) |
2019 – 2023
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Keywords | 慢性副鼻腔炎 / 好酸球性副鼻腔炎 / 亜鉛 / コラーゲン / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、難治性副鼻腔炎は増加傾向にある。中でも鼻茸を伴う副鼻腔炎 (Chronic rhinosinusitis with nasal polyps; CRSwNP 好酸球性副鼻腔炎の多くの症例がこれに該当する。ヨーロッパの最新のガイドラインEPOS2020ではPrimary, diffuse, Type2, CRSに分類される)に対して治療戦略上のブレイクスルーが期待されている。その病態はA. 鼻粘膜上皮のバリア機能の低下を背景としたTSLPやインターロイキン33等のサイトカイン産生亢進を契機に、B. Th2優位の免疫応答(Type2炎症)が生じ、その結果として、 C. リモデリングが生じフィブリン網形成やコラーゲンの低下による浮腫が遷延し、鼻茸が形成されると考えられている。申請者らのグループはCRSwNPにおいて、鼻粘膜組織中にみられる亜鉛が低下していることを明らかにした。そこで、本研究課題ではこの組織中低亜鉛が上記のそれぞれの病態にどのように関与しているかを明らかにすることを目的とし、これまでに低亜鉛が鼻粘膜上皮細胞や線維芽細胞に与える影響を検討してきた。具体的には低亜鉛環境では上皮細胞でのサイトカイン産生が亢進されることや、線維芽細胞でのコラーゲン産生が抑制されることを明らかにした。これらは副鼻腔炎、特にCRSwNPの病態形成の一因となる因子であり、治療標的として有用である可能性が考えられた。また、亜鉛トランスポーターと亜鉛キレーターの遺伝子発現を検討したが、亜鉛の細胞内キレーターであるメタロサイオニン以外の発現は変化していなかった。qPCR法や蛍光免疫染色法で組織内亜鉛とメタロサイオニンの発現をin vivo, in vitroで検討した結果、副鼻腔炎におけるメタロサイオニンは低亜鉛の原因ではなく結果であると考えられた。これはメタロサイオニンが組織中亜鉛のマーカーとなりうることを示唆すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、上皮細胞でのサイトカイン産生が亢進されることや、線維芽細胞でのコラーゲン産生が抑制されることを明らかにした。これらは副鼻腔炎、特にCRSwNPの病態形成の一因となる因子であり、治療標的として有用である可能性が考えられた。 一方で、副鼻腔炎でなぜ低亜鉛環境が生じるかは未だに不明である。組織内亜鉛は亜鉛トランスポーターと亜鉛キレーターによって厳密に制御されているため、これらの遺伝子発現を検討したが、亜鉛の細胞内キレーターであるメタロサイオニン以外の発現は変化していなかった。このメタロサイオニンはそのプロモーター領域にMetal response element(MRE)を持ち、組織中亜鉛に応答して発現が変わることが知られている。発現したメタロサイオニンは組織内の過剰な亜鉛と結合することで亜鉛ホメオスタシスを維持することに貢献している。qPCR法や蛍光免疫染色法で組織内亜鉛とメタロサイオニンの発現をin vivo, in vitroで検討した結果、副鼻腔炎におけるメタロサイオニンは低亜鉛の原因ではなく結果であると考えられた。これはメタロサイオニンが組織中亜鉛のマーカーとなりうることを示唆するが、一方で、低亜鉛の原因は現在も不明である。 Covid-19の影響を大きく受けたことは事実ではあるものの、一部の研究領域では予想を上回る進展があった。一方、低亜鉛の原因についてはまだ解明の余地が大きく残されており、区分としては(2)おおむね順調に進展していると自己点検とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに報告されている慢性副鼻腔炎由来鼻粘膜における亜鉛トランスポーターの発現はqPCR法を用いたものであった。この際に使われたプライマーはスプライシングバリアントとワイルドタイプを判別できないものがある。例えばZIP2にはワイルドタイプと⊿C-ZIP2の存在が知られているが、難治性慢性副鼻腔炎を合併するCystic fibrosisではZIP2のこのSplicing variantへのスイッチングが生じていると報告されている。一方、先行報告で使用されているプライマーではexon 2とexon 3を認識するが、ワイルドタイプと⊿C-ZIP2の両者がこのエクソンを含むため判別ができない。そのため、各亜鉛トランスポーターのスプライシングバリアントが副鼻腔炎粘膜における低亜鉛環境に影響している可能性は、これまでの実験系からは否定できない。 亜鉛トランスポーターのワイルドタイプだけではなく、スプライシングバリアントが関与している可能性を考え、①鼻粘膜を構成する細胞においてスプライシングバリアントが亜鉛ホメオスタシスに与える影響を評価、②副鼻腔炎症例におけるスプライシングバリアントの存在の有無、③スプライシングバリアントの発現と組織中亜鉛の関連、④スプライシングバリアントの発現と血清亜鉛を含む臨床情報(副鼻腔炎サブタイプ、CTスコア、ポリープスコア、予後など)を検討していきたい。 またこれらの研究結果を英語原著論文として報告し、論文が溜まり次第総説や著書として発表。また社会へアウトリーチとして還元することを考えている。
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[Journal Article] Repetitive simulation training with novel 3D-printed sinus models for functional endoscopic sinus surgeries2022
Author(s)
Suzuki M, Miyaji K, Watanabe R, Suzuki T, Matoba K, Nakazono A, Nakamaru Y, Konno A, AJ Psaltis, Abe T, Homma A, PJ Wormald
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Journal Title
Laryngoscope Investigative Otolaryngology
Volume: 7
Pages: 943-954
DOI
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