2022 Fiscal Year Research-status Report
Epigenetic analysis of regulating bone and mineral metabolism under rare disease in orthognathic lesion
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18KK0464
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
井澤 俊 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (30380017)
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Project Period (FY) |
2019 – 2023
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Keywords | 破骨細胞 / エピゲノム / RANKL / 顎顔面領域稀少性遺伝子疾患 / 骨折治癒 / 変形性顎関節症 |
Outline of Annual Research Achievements |
喫煙が骨粗鬆症や骨折のリスクファクターであることは疫学的によく知られた事実であるが、そのメカニズムは十分に明らかにされていない。タバコの煙の中で最も強力な化学物質の一つがbenzo[a]pyrene(B[a]P)であり、アリルハイドカーボンレセプター(aryl hydrocarbon receptor:AhR)を活性化することが知られている。そこで、骨折などの病的状況下でのB[a]PとAhRシグナル伝達機構の影響解明や新たな骨代謝疾患の診断や治療法の開発を目的とする。マウスに骨折やB[a]Pを経口投与後、大腿骨部、脛骨、下顎頭部を摘出し、脱灰後に各種組織学的解析や免疫学的解析を実施する。また、マウス大腿骨から骨髄細胞を採取し、AhRリガンドのB[a]Pや内因性リガンドの6-formylindolo[3,2-b]carbazole(FICZ)刺激による破骨細胞形成能を培養系において比較する。アポトーシスの指標の一つCaspase 3の分断化について下顎頭部での発現解析を行ったところ、WTマウスにおいてB[a]P経口投与群では著明な発現上昇を示した一方で、AhR-/-マウスではB[a]P経口投与による変化はみられなかった。また、今年度はマウスの骨折モデルを確立することができた。さらにin vitroでの破骨細胞形成能において、B[a]Pの濃度依存的に破骨細胞形成能の増加、一方で内因性のAhR リガンドの一つFICZでは濃度依存的に破骨細胞形成能の低下を認めた。AhRリガンドであるB[a]P及びFICZ投与が下顎頭において各々異なる作用を示し、AhRリガンド刺激によるアポトーシスシグナルを介したAhR活性化経路が破骨細胞分化や骨折治癒過程において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ダイオキシン受容体として知られる転写因子AhRは、様々な組織に発現を認め、最近では一部の免疫細胞にも高発現していることがわかっている。しかしながら、各種AhRリガンドを介した破骨細胞分化や骨折、顎関節の病的状況下での骨代謝への詳細な影響については未だ不明な点が多いのが現状である。また、近年の疫学的研究では、たばこ煙中に高レベルで含まれている有害物質B[a]PによるAhRの活性化と、炎症関連病態である骨粗鬆症や変形性顎関節症(TMJ-OA)との関連が示唆されている。予備実験としてMaesらの報告に準じ我々はすでにWTマウス骨折治癒モデルを確立し、さらに骨折の過程でAhR発現が上昇するというデータを得ている。また、骨折に伴い出現する病的状況下でのTRAP陽性破骨細胞とAhRの発現が一致していることが判明した。そこで今後はさらに、AhR欠損マウスを骨折後3、7、14、21日目において軟エックス線撮影、マイクロCTによる形態学的観察を行い、骨折の治癒過程をB[a]Pの経口投与群を対照マウスと比較する。さらに、必須アミノ酸のトリプトファン代謝物であるFICZは高親和性の内因性AhRリガンドとして知られている。本研究の目的は、AhRの外因性リガンドB[a]P及び内因性リガンドFICZを使用して、AhRを介した下顎頭骨吸収促進メカニズムを解明することである。予備的研究結果では、アポトーシスの指標の一つCaspase 3の分断化について下顎頭部での発現解析を行ったところ、WTマウスにおいてB[a]P経口投与群では著明な発現上昇を示した一方で、AhR-/-マウスではB[a]P経口投与による変化はみられなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
Duke大学のAlman教授らのグループはsingle cell RNA seq解析を用いた経年的な骨修復能低下の原因解明を目指した研究を実施しマウス骨折モデルにおいて骨修復、骨リモデリングに関する新しい知見を見出した。骨の吸収を担当する破骨細胞は、これまでマクロファージ単球系の細胞から分化すると考えられてきたが、一部の破骨細胞は胎児卵黄嚢に発生するErythromyeloid progenitorに由来することを発見し報告した。そこで今回、マウス骨折モデルへのタバコの煙成分B[a]P暴露におけるsingle cell RNA seq解析を用いることで、骨折病変内に豊富に存在する造血幹細胞、骨髄間質細胞を破骨細胞、骨芽細胞に分化誘導させ骨欠損病変部に骨の再生とともにこれまで実態の明らかでなかった骨折部位骨髄環境が生み出すインフラマソーム排他的ニッチを形成させ、病的骨吸収を防ぐという革新的な概念の再生・細胞治療法に展開できることも期待できると考える。また、研究成果はカナダのバンクーバーで開催予定の米国骨代謝学会(2023年10月13日より2023年10月16日まで開催予定)にて発表予定である。その際に、国際共同研究を遂行するにあたって受け入れていただいた実績のある米国ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学医学部のSteven L. Teitelbaum教授、Wei Zou先生とは現在も本国際共同研究の打ち合わせを大会期間中にも行う予定である。具体的には、破骨細胞や骨細胞におけるシングルセルやRNA-seq、ChIPアッセイなどエピジェネティクス研究の手法について引き続きWei Zou先生から指導を受ける予定である。現在のところ、以上の実験内容を遂行する上ではハード面、ソフト面の両面ともに問題ないと考える。
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Research Products
(10 results)