Research Abstract |
第一に,微小循環系の問題に対しては,これまでに開発した微小循環モデルの計算コードを領域分割法を用いて並列化し,赤血球を数千個含む大規模計算を可能にした.10~50μm程度の微小血管において計算されたみかけの粘度や血漿層厚さなどが実験値と良い一致をすることを確認した.また,マラリア感染における薬効評価のため,マラリア感染赤血球と正常赤血球,またはマラリア感染赤血球と血管内皮細胞間の接着能を変化させるモデルを導入し,感染赤血球膜表面のタンパク(例えばPfEMP1)の発現の有無による赤血球流動の変化を解析することが可能となった.さらに,血小板血栓生成の問題に応用し,病的な血栓生成によって赤血球への力学的負荷が増大する可能性が示唆された.第二に,消化器系の問題に対しては,これまでに開発した胃内容物攪拌モデルを用いて胃内容物量,姿勢,さらに食物粘度による流動変化および応力変化の詳細を明らかにした.密度や粘度の異なる食物の多相流として取り扱うモデルに発展させ,胃壁から分泌される胃液との攪拌現象の解析を可能にした.また,嚥下造影画像に基づく嚥下の患者個別モデルを開発し,姿勢や食物粘度,さらには障害の有無による嚥下過程の変化を解析することを可能にした.さらに,小腸内の消化物流動モデルを構築し,小腸内での栄養素などの物質輸送現象の詳細を明らかにした.第三に,肺循環に関連し,肺動脈の末梢側に流動抵抗を与えるモデルを構築した.これを気胸発生時の肺動脈に応用し,その際の血液の酸素化に与える影響を明らかにした.さらに,グラフィックスプロセッサ(GPU)を用いた肺内気流の患者個別モデルを新たに開発し,医療現場での応用で重要となる安価で小規模な計算機での解析環境の構築に成功した.
|