Research Abstract |
長野県西部地域において,1kmメッシュの詳細な3次元地震波速度構造を推定することが出来た.高精度の震源分布と比較することにより,地震は,規模の大きな低速度域には少なく,その周辺の相対的に高速度域となっている領域中の局所的な低速度域の極近傍で数多く発生していることが分かった.このことは,規模の大きな低速度域を通して深部から供給された水が,局所的な低速度域において高い間隙水圧となり,その近傍で地震を引き起こしたことを示唆している.深さ2km程度と最も浅く,また速度低下の量が大きい低速度域付近では,応力逆解析により,最大主圧縮応力の向きが乱れること,および水平面内の圧縮応力の差が小さくなることが分かった.このことは,顕著な低速度域付近において,応力緩和が発生していることを示しており,水の存在により,非弾性変形が進行して応力緩和が起こった可能性が考えられる.さらに,詳細な3次元比抵抗構造を推定し,深部の比較的広い範囲の低比抵抗異常,および浅部の局所的な低比抵抗異常を見出した.地震は,浅部の低比抵抗異常域を取り巻くように発生していることが分かった.また,それは低速度異常域と調和的であり,水の存在を強く示唆している.このように,長野県西部地域において,他に例を見ない詳細な地震波速度・比抵抗構造を推定することに成功した.低速度・低比抵抗異常域は地震の活動域と住み分けているように見えることから,水が多く存在する領域では,むしろ地震は起こりにくいものと考えられる.このことは,地震と水の関係を再考する必要を示しており大変重要な結果である.小さな地震の断層そのものにおいて,間隙水圧が高いのか低いのかという問題は,さらに詳細な解析を必要とする.
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