Research Abstract |
<物質>や<精神>の問題を超えて現代の文明と思想が最も深刻に問うことを要請されているのが<生命>の問題である.その問題の重要性を他に先駆けて,後戻りできない仕方で提起したのがベルクソンであり,とくに彼の第3の主著『創造的進化』(1907)であった.この書の今日的意義を,刊行100年を機に世界的な広がりの中で,可能な限り幅広い関心の下で問おうというのが,本科研の研究課題である.平成19年度にヨーロッパ・アメリカの研究者との間で同書について徹底討論の機会を得たのに続いて,20年度にはアジア,とくに韓国・中国のベルクソン専門家たちとの間で,やはりシンポジウムの形でこの書の諸問題を徹底討議する機会を得ることができた(「東アジアにおけるベルクソン」10月9日-11日,法政大学・明治大学).ベルクソン,さらには広く西洋哲学一般に関して,このように日・中・韓3力国の研究者が一堂に会して議論すること自身が,機会がそうないことと考えられ,事実,互いのベルクソン受容史の比較でも,また今日の議論で,哲学史や科学史にベルクソンを位置づけたり,生政治や生命倫理の議論でベルクソンを引いたりする際の互いのやり方の比較でも,学ぶことは多かった.3力国でベルクソン哲学の受容とその後今日に至るまでのそれについての研究の推移は,一面であまりにも似ているのであるが,また一面であまりにも異なっているのである.このことをさらに整理して,そこから明確な帰結を得るべく,直後にこのシンポジウムを活字化する道も追及したが,これについても,19年度に続いて,ドイツOLMSから報告集出版の前向きの返事が得られた.このこと自身も,今年度の大きな研究成果の一つとして,ここに記しておきたい.
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