2009 Fiscal Year Annual Research Report
翻訳と文化横断性についての総合的研究--翻訳の言語態を継承しつつ
Project/Area Number |
19320044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
湯浅 博雄 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30130842)
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Keywords | 翻訳 / 翻訳の言語態 / 異文化交流 / 間文化 / 他者関係 / 他者理解 |
Research Abstract |
本年度の研究成果として、平成21年11月21日、湯浅博雄が中心となり、東大駒場キャンパスにて『終わりなき対話』およびそれ以降のブランショ」と題されたシンポジウムを開催した。第一部「レヴィナスを読むブランショ」においては、上田和彦(関西学院大学)が、レヴィナスの最初の主著である『全体性と無限』をブランショが綿密に読解している『終わりなき対話』の前半部分について、詳細な報告を行なった。ブランショは、レヴィナスがこれまでの現象学的な他者理解の思想の限界を適切に指摘していること、他者が私へと呼びかけてくるのは広い意味合いでの言語活動を通じてであること、他者の呼びかけに私は応答するように促されるのだが、そういう他者の呼びかけのなかに他者そのものが真に現前していることはなく、根本的に不在であるままに現前しているのであり、絶えず不在化することを止めない仕方で私へと現前してくることを、みごとに解明していると評価する。このレヴィナスの他者論、またそれを深化させているブランショの他者の思想は、現代の異文化交渉・交流にとってきわめて重要な基本的視座を提出してくれている点をめぐって、湯浅、山田、田尻、星埜がそれぞれにコメントを述べ、聴衆からも意見を発表してもらい、議論を深めた。 第二部「ブランショとデリダ」においては、若森栄樹(獨協大学)が、デリダの論考『パ(pas)』および『生さ延びる』について、厳密な読解を行なった。デリダは、ブランショの他者論の基底にあるのは、ランガージュ(言語活動、言葉づかい、語法)への透徹した理解であること、他者関係や他者理解についての考察を深めるためには、たとえばソシュールの言語思想がそうであるように、「しるし(シーニュ)としての言語」の成立や作用、働き方を徹底的に分析し、その仕組みを解明する必要があること、さらには言語の作動は必ずしも意識された思考の動きだけではなく、われわれの心のなかで「意識されていない心的プロセス」も巻き込んでいるので、精神分析が問うてきたような問題系も考えていかなければならないことを、鋭く指摘している。こうしたデリダの論点、さらにはそれが言及しているブランショの思索をめぐって、湯浅、山田、宮下、星埜、田尻、西中村が各自の見解を提起し、全員で討議しつつ、考察を進めた。このシンポジウムにおける討論は、他なる言語・文化・慣習・習俗・宗教を理解するうえで、言語的な過程、とくに翻訳と呼ばれる過程がきわめて大きな意味合いをもっていること、他者を受け入れつつ、理解するために、さらには他者を自分の言語・文化・習慣・習俗のうちへと同化してしまうことなく、他者の他者性を尊重しつつ、深く関係するたあに、決定的な重要性をもっていることの確認を可能にしたと言えよう。この討議の成果の一端は、湯浅の著書『応答する呼びかけ』(未来社)のなかに反映されている。
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Research Products
(3 results)