2008 Fiscal Year Annual Research Report
アナトリア諸語と印欧諸語の動詞体系の比較言語学的研究
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19320059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 Kyoto University, 文学研究科, 教授 (90183699)
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Keywords | プロソディー / ヒッタイト語 / 楔形文字ルウィ語 / 象形文字ルウィ語 / リュキア語 / アクセント / モーラ / 子音の弱化 |
Research Abstract |
話し手のいない文献言語から、プロソディーについての情報を引き出すことは決して容易でない。プロソディーについての情報が文字によって書き残されていることはまれであるからである。本年度の研究では、ヒッタイト語、楔形文字ルウィ語、象形文字ルウィ語、リュキア語などの共通基語であるアナトリア祖語において、アクセントを担う基本的な単位が音節ではなく、モーラであったことを歴史比較言語学的な観点から示そうとした。 アナトリア祖語の時期に、アクセントのある長母音の後、およびアクセントのない母音間で子音は弱化した。また、ピッチの高さと子音の強さが相互に関連していることは類型論的によく知られており、近年の音韻論では、両者を統一的にとらえる弁別素性として[stiff vocal folds]が用いられている。うえの2つの子音弱化規則は、アクセントのある長母音をはじめのモーラにアクセントのある2モーラ連続と再解釈すれば、直前のモーラに内在する[-stiff vocal folds]という素性がつぎの子音に広がる順行同化として、ひとつに一般化することができる。また同じくアナトリア祖語の時期に生じた語末の-rの消失についても、直前のモーラが[-stiff vocal folds]という素性によって特徴づけられる場合に-rが消失したと考えれば、ヒッタイト語zinnattari'is finished'に代表される鼻音接中辞を持つ形式が無理なく説明できる(*ti-n-h1-or→ *tinno:r>*tinno:→zinnattari)。以上の2つの独立した根拠から、アナトリア祖語においてアクセントを担う基本的な単位はモーラであったと考えることができる。
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[Presentation] 印欧諸語2008
Author(s)
吉田和彦
Organizer
西田龍雄先生傘寿記念リレー講演会
Place of Presentation
京都大学ユーラシア文化研究センター
Year and Date
2008-11-22
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