2009 Fiscal Year Annual Research Report
アナトリア諸語と印欧諸語の動詞体系の比較言語学的研究
Project/Area Number |
19320059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 Kyoto University, 文学研究科, 教授 (90183699)
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Keywords | 印欧祖語 / アナトリア諸語 / ラテン語 / ギリシア語 / 歴史文法 / リュキア語 / ヒッタイト語 / 中・受動態 |
Research Abstract |
最近、公刑されたラテン語の歴史文法のなかで、Weiss(2009)は1人称単数中・受動態の2次語尾として*-h_2eと*-h_2eh_2eを印欧祖語に再建している。彼の見方では、ギリシア語の1次語尾-μαιと2次語尾-μηνは、それぞれ*-(m)-h_2e-iと*-(m)-h_2eh_2e-mという祖形から規則的に導かれる。しかしながら、*-h_2eh_2eという語尾の再建は、アナトリア諸語内部の歴史を詳細に検討すれば、妥当でな.いことが分かる。 ヒッタイト語においては重複語-hhahaは後期ヒッタイト語に特徴的であり、古期ヒッタイト語には1例しか記録されていない。この事実から、印欧祖語に*-h_2eh_2eが存在していたという見方は受け入れることができず、ギリシア語の-μηνは*-h2_eh_2eを直接継承する形式ではない。つまり、-μηνはギリシア語内部で二次的につくられた語尾である。 また、ヒッタイト語の重複語尾-hhahaは、現在形においては生産的に使用されておらず、過去形に顕著にみられる。アナトリア祖語においては、1人称単数中・受動態現在語尾は*-h_2er、過去語尾は*-h_2eと再建される。他方、hi-動詞の1人称単数能動態現在語尾は*-h_2ei、過去語尾は*-h_2eである。すなわち、現在形においては中・受動態動詞とhi-動詞のあいだの形式的な区別が明瞭であったのに対して、過去形においては両者が同一の一語尾を持っている。この状況は機能的にみて望ましくないために、両者を独自に特徴づけるために、1人称単数中・受動態現在に重複語尾-hhahaが成立したと考えられる。リュキア語にも一χagaという重複語尾があるが、これもリュキア語内部の二次的発展の結果である。
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