2010 Fiscal Year Annual Research Report
アナトリア諸語と印欧諸語の動詞体系の比較言語学的研究
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19320059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 京都大学, 文学研究科, 教授 (90183699)
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Keywords | 印欧語比較研究 / アナトリア諸語 / ヒッタイト語 / 語幹形成母音 / 音法則 / 類推 / 印欧祖語 / アクセント |
Research Abstract |
印欧語比較研究における難問のひとつである動詞語幹形成母音-e/o-の起源についての研究を進めた。その結果、以下の知見を得ることができた。1.語幹形成母音を持つ現在形は数多くみられるのに対して、印欧祖語に確実に遡ると考えられる語幹形成母音を持つアオリストは2例しかない。またゲルマン語にみられる語幹形成母音を持つ動詞は過去形にはみられず、現在形に限られている。これらの事実から、語幹形成母音は本来現在語幹に固有の特徴である。2.さらに、ヒッタイト語には接尾辞を含む動詞以外に語幹形成母音を持つ動詞が存在しないことから、ヒッタイト語は祖語の古い特徴を保持している。他方、接尾辞をともなわない語幹形成母音は他の語派における二次的発展による。3.以上のことから、語幹形成母音-e/o-は能動態動詞現在語幹を形成する接尾辞-ye-に由来し、ヒッタイト語を含むアナトリア諸語が印欧祖語から離脱した後、この接尾辞に含まれている母音-e-が語尾の一部と再解釈され、接尾辞を取らない現在形に広がったことによって成立した。4.大部分の印欧諸語では語幹形成母音がパラダイムのなかで-e-と-o-のあいだで交替するのに対して、ヒッタイト語の古い時期において能動態動詞は接尾辞-ye-によって特徴づけられている。5.この事実から、アナトリア諸語の離脱の後、アクセントが先行する閉音節のeがoに変化するという音法則が、残りの諸言語において作用したと考えられる。この音法則によって、動詞パラダイム内に語幹形成母音-e-と-o-の交替がみられるようになった。6.他方、トカラ語現在第3類とゴート語の語幹形成母音を持つ動詞においては、語幹形成母音はパラダイムを通して*-o-である。その理由は、これら2つのカテゴリーは能動態ではなく、中・受動態に遡るからである。その他の言語の中・受動態が語幹形成母音-e/o-の交替を示すようになったのは、対応する能動態からの類推による。
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Research Products
(8 results)