Research Abstract |
大腸菌走化性受容体は,菌の極で巨大クラスターを形成する.この性質は,シグナルの増幅や適応に重要であるが,走化性受容体がどのようにして細胞の極に局在するのかという基本的な疑問については全くわかっていない.本研究では,これまでの研究を発展させつつ,より視野を広げて,走化性以外の環境応答系の局在,コレラ菌におけるパラレルなシステムの使い分けや病原性との関連なども含めて解析している.本年度のおもな成果は,以下のとおりである. 1.膜貫通型蛋白質の細胞内局在化機構:大腸菌走化性受容体について,化学架橋剤を用いた解析を行い,極クラスター内での受容体ダイマーの配置とそのリガンド結合による変化を推定した.一方,全反射型蛍光顕微鏡を用いた解析により,細胞膜中での受容体および受容体結合蛋白質の動きを解析した.さらに,大腸菌膜貫通型ヒスチジンキナーゼのうち,極局在を示したTorSについて詳しく解析し,局在に必須なドメインを決定し,環境変化によってその局在が変化することを見出した.以上の解析では,GFP融合体を用いたが,さらに詳細な解析を目指し,FlAsH, HaloTagによる走化性受容体の標識を試み,局在観察可能な系を構築した. 2.コレラ菌における3組の走化性相同システムの機能と局在:コレラ菌は,3組のChe蛋白質群(Cheシステム)および45種の走化性受容体様蛋白質(MLP)をもつ.MLPの中には培養温度により発現量が変化しないものと,温度が上昇すると発現量が上がるもの,下がるものがあること,走化性シグナル伝達系タンパク質群は常にべん毛のある細胞極に局在するが,それと相同で走化性に直接関与しない系の構成蛋白質は,微好気条件下でのみ極局在を示すこと,この制御には新規タンパク質合成は不要で,酸素の欠乏そのものではなく細胞内エネルギー代謝の低下が関与することを見出した.
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