Research Abstract |
まず第1に,共変動情報に基づく因果帰納の特性の研究(研究I)に関する研究結果をまとめて国際誌に発表した.その内容は,共変動検出の二要因ヒューリスティック(DFH)・モデルの記述的妥当性と適応的合理性を明らかにしたものである.まず,これまでに様々な分野で提案された2×2分割表に関する41個のモデルを網羅的に比較して心理データに基づくモデルの記述的妥当性を検討し,DFHモデルの優位性を確認した.同時に,単に観察するだけの場合と,推論者がシステムに介入する場合では,因果推論の結果が異なる点について実験的に検討した.次に,このモデルが現実世界における適応な方略を提供することを,コンピュータ・シミュレーションによって明らかにした. 第2に,基準率錯誤として知られる確率判断のエラーが,因果推論と同じ枠組みで説明できるという仮説を提案してその理論的予測の正しさを実験的に確認し(研究II),研究成果を国際学会で発表した.タクシー問題や乳がん問題が難しいのは,ターゲットとなる2つの事象の集合(たとえば,乳がんと陽性検査)のサイズが大きく異なるからである.すなわち,人々は,ターゲットとなる2つの集合間に因果関係を想定し,両集合の大きさが等しいと考える傾向があるため,その想定と大きく異なる構造をもつ課題では正解するのが難しくなる.この仮説の妥当性を実験により検証した. 第3に,上記2つの研究のモデルの前提となる等確率性仮定が,これまで行動分析学や比較認知科学で研究されてきた刺激等価性の前提としての対称性とどのように関係があるのかについて,学際的研究を推進した.具体的には,人工知能,動物心理学,発達心理学,哲学などの分野の研究者とワークショップを開催して,議論を深め,今後の研究方向を探った.
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