2007 Fiscal Year Annual Research Report
<暴力>の社会思史的研究-ゲヴァルト/ヴァイオレンスの二分法を超えて
Project/Area Number |
19520077
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
上野 成利 Kobe University, 国際文化学研究科, 准教授 (10252511)
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Keywords | 暴力 / ミメーシス / 批判理論 / 社会哲学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ゲヴァルト(主体の支配・統御に関わる暴力)とヴァイオレンス(主体の統御を超えてほとばしる暴力)という<暴力>のこつの側面に着目し、この両者がどのように絡み合っているのかを解明することである。本年度は主にゲヴァルトを軸とした暴力諭、とりわけ「主権」概念の検討に重点を研究ではとくに20世紀前半のC・シュミットの「主権」論、および現代思想の文脈のなかでその系譜を引くG・アガンベンの議論に焦点を当てて検討した。 シュミットとアガンベンの議論の特微は、近代の主権国家にとどまらず政治的なもの一般を特微づける存在論的条件として「主権」を位置づける点にある。とくにアガンベンにおいてそれは顕著だといえる。西洋政治思想の伝統にあって、「主権」による人間の包摂/排除が政治的なものを一貫して規定してきたというのが、アガンベンの議論の要諦である。こうした議論は一方で主権国家のもつ暴力性をくっきりと浮かび上がらせるが、しかし他方でそれはM・フーコーやA・ネグリらの「生-政治」論とは真っ向から対立する。フーコーらからすれば、近代の政治を根底で規定しているのはむしろリベラルな統治とみなされるからだ。 本研究では「主権」をめぐるこうした論争的状況の布置を押さえつつ、シュミットの主要なテクストにあらためて検討を加えた。それによって確認できたのは、シュミットのテクストそのものは多層的な解釈の幅をもっており、かならずしもアガンベンの図式にすっきり収まるものではないが、同時にアガンベンのような解釈を強く呼び込む側面をもはらんでいる、ということである。こうした錯綜を解きほぐすためには、シュミットの思考の神学的な側面について精査する必要があるだろう。これについては次年度以降の課題としたい。
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