2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520086
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北村 清彦 Hokkaido University, 大学院・文学研究科, 教授 (70177864)
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Keywords | ヨネ・ノグチ / 牧野義雄 / 外山卯三郎 / 文化的二重国籍性 / 美学 |
Research Abstract |
昨年度はヨネ・ノグチと同様の「文化的二重国籍性の美学」を担う人物として画家・牧野義雄に関する資料の収集に努め、両者の共通点および相違点について考察した。すなわち両者ともにアメリカ、イギリスでその青年時代を過ごし、多くの友人を得る一方で、被差別的な体験にも苦しめられた。しかし日露戦争を契機に日本に戻ったヨネが国家主義的思想に染まってゆくのとは異なり、牧野はロンドンにとどまり、やがて自らの芸術を完成させるに至る。「文化的二重国籍性」という概念は決して静態的なものではなく、その二重性を一元化しようとするベクトルと、あくまで二重性を保持し続けようとするベクトルとの力動性のなかにあることがうかがえる。 またヨネが帰国し,旺盛な執筆活動を続けていた明治末から昭和初期の時代そのものが,日本という国家の文化的二重国籍性が破綻する時期でもあった。ヨネの長女の夫となる外山卯三郎は北海道大学予科、京都大学文学部でドイツ美学を学び、また当時のフランス美術にも精通するのみならず、自らも文芸活動や前衛的芸術活動に携わった美術評論家である。そのように当時の西洋に関して一流の知識を持っていた人物が、陸軍軍人で満州国創設にも深く関与した石原莞爾の蔵書を引き受け兵法に関する書物の翻訳に携わってもいた。ヨネが外山に影響を与えたのか、それともその逆か。詳細なところについては、本年度も引き続き調査するとしても、このように当時の知識人が西洋的なものと日本的なものとに引き裂かれながら、かつ自己同一性を保ちえたのはなぜか。彼らの自己矛盾をどのように理解すべきか。「文化的二重国籍性」の概念は、当時の日本の精神性をも明らかにしうる射程を有するのである。
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Research Products
(6 results)