2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520086
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北村 清彦 北海道大学, 大学院・文学研究科, 教授 (70177864)
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Keywords | ヨネ・ノグチ / イサム・ノグ / 外山卯三郎 / 文化的二重国籍性 / 美学 / 牧野義雄 |
Research Abstract |
本年度は本研究の最終年度に当たるので補足的な資料の収集に努め、最終報告書の作成を進めた。本研究は「ヨネ・ノグチ」という忘却された文学者の美学が、彼の影響だと知られることなく今なお欧米において、また我が国において根づいているのではないか、という仮説のもとで比較研究を行うことが目的であった。その結果、彼の「美学」は明治末から第二次大戦に至る時代の影響を強く受けたものであって、必ずしも今日、直接的に継承されているわけではないが、彼と同様の「文化的二重国籍性」の心性を持った思想の系譜をたどることが可能である、という結論に至った。すなわち彼の友人の画家・牧野義雄、息子イサム・ノグチ、義理の息子外山卯三郎などヨネの直接の関係者はもちろん、ヨネ以前の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、あるいはヨネと同世代でありながら全く異なった生き方を選択した永井荷風などもこの「文化的二重国籍性」の概念のもとでその美学を再検討できるだろう。さらに日本だけにとどまらず、このグローバル化が進行する中でいかにローカルティを保ちえるのか、という今日、世界中で起きている文化摩擦の問題も「文化的二重国籍性」の一つの展開形と考えられる。またヨネの稚拙ともいえる詩がイギリスで評価されたのも、西洋における一種のオリエンタリズム的嗜好ゆえであり、現在でもそのような傾向は払拭されたどころか、ワールド・アートの世界ではむしろ積極的に打ち出そうともしている。そうであればヨネ・ノグチの美学は、そのままの形で今日の芸術思想として有効であはありえないが、「文化的二重国籍性」という、より大きな文脈の中に置き直して評価することが可能である。イサム・ノグチのアーティストとしての名声が高まり、またイサムの母レオーニ・ギルモアを主人公とする映画が公開されたりして、ヨネの名が再び知られるようになってきた。だが彼の今日的可能性を探る作業はようやく着手されたばかりである。
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Research Products
(5 results)