2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520096
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
尾関 幸 Tokyo Gakugei University, 教育学部, 准教授 (10361552)
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Keywords | 友愛図 / キリスト教的ヨーロッパ / 聖ルカ兄弟団 / ナザレ派 / 対概念 / 二重肖像画 / ロマン主義 / ナポレオン |
Research Abstract |
当該年度には、ドイツ・ロマン主義に特有の図像とされる「友愛図」を生み出した「ナザレ派」の精神的背景を文献調査によって分析し、それがフランス革命に留まらず、その後に起こったナポレオンによる大陸支配という閉塞的状況をも反映しているという結論に達した。ナザレ派の芸術は復古主義的、擬古典主義との限定的評価を受けているが、その本質は過去の様式や技法の継承ではなく、「宗教改革以前のヨーロッパ」すなわち、キリスト教がカトリックとプロテスタントに分裂する以前の、ひとつのヨーロッパという概念の形象化である。「キリスト教的ヨーロッパ」という観念的地理区分は、ナポレオンの登場と平行してドイツ・ロマン主義の思想界に現れ、ナザレ派の正式名称である「聖ルカ兄弟団」もまた、ナポレオンによる占領下の神聖ローマ皇帝領で結成された。「ローマ帝国」の幻影に基づく現実世界におけるヨーロッパの統一が進行する一方、ナザレ派の芸術家たちは「ユートピアとしての一つのヨーロッパ」という未来的ヴィジョンを抱いて、新しい芸術の創造を試みた。一対の同性を表した図像「友情図」は、そのような精神的潮流を象徴する図像とみなされる。「カストルとポルックス」「マリアとマルタの家のキリスト」「聖愛と俗愛」といった、「明・暗」「聖・俗」「静・動」「善・悪」等、対極的な特性を表現する図像伝統に依拠しつつも、二者間の相同性、類似性を強調するナザレ派の友愛図は、このような背景のもとに生まれたと考えられる。
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Research Products
(1 results)