2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520214
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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Keywords | タンホイザー / 伝説 / ワーグナー / アンデルセン / 自伝 / エリーザベト / 中世 / 近代芸術 |
Research Abstract |
19世紀デンマークのメルヒェン作家アンデルセンは、南の隣国ドイツとの関係がことに深く(たとえば「自伝」のように、祖国ではなくまずドイツで出版されたものもある)、ドイツのロマン派の作家たちや王侯たちとも親しく交際していた。そういう中で、タンホイザー伝説の舞台となっているテユーリンゲン地方の支配者であり、あのゲーテの招聘者カール・アウグストの孫でもあったワイマール大公との関係はとりわけ深いもので、「ひとりものじいさんのナイトキャップ」は、その関係がなければ生まれなかった作品である。しかも、そこでは大公との個人的関係と同時に、タンホイザー伝説とエリーザベト伝説というドイツの伝説もきわめて大きな役割を演じている。さらに、そこにはトリスタン伝説も含まれており、明らかに同時代のドイツの音楽家ワーグナーを、アンデルセンが意識していたことが分かる。 そういうわけで、近年その同性愛の問題などが注目されてはいるが、詳しく論じられことのほとんどないメルヒェン「ひとりものじいさんのナイトキャップ」を取り上げ、アンデルセンのタンホイザー伝説受容の特質を、ワーグナーと比較しつつ、近代芸術と伝説との関係のひとつの典型として、すなわち、共同体の集合的体験である普遍的遺産を、個人的な自伝に組み入れようとする試みとして分析した。
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Research Products
(1 results)