2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520286
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
花登 正宏 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 教授 (60107175)
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Keywords | 辞書史 / 形書 / 音書 / 義書 / 部首 / 配列方法 / 『洪武正韻彙編』 / 『玉篇』 |
Research Abstract |
本年度は、字形により収録字を配列する形書(字書)について考察を加えた。形書の嚆矢である『説文解字』(100年)は、部首により収録字を配列したが、540の部首の配列は始-終亥という、著者許慎の宇宙観に基づいており、極めて検索しにくい形書であった。『説文』に次ぐ形書である『玉篇』(543年、原本佚。いま『大広益会玉篇』により、以下『玉篇』と称する)も部首の数を542部としただけで、配列方法は『説文』と同様であった。形書の検索の便を図るため、部首に加えて、部内の収録字も画数順に配列したのは、従来は明・梅膺祚『字彙』(1615)とされてきたが、本課題による研究により実は明・周家棟編『洪武正韻彙編』(1602年序)であることを明らかにしてきたところである。しかし、中国では近代に至って、始-終亥方式の『説文』や『玉篇』に索引が付されることはあっても、その配列方法を『洪武正韻彙編』・『字彙』に倣って改めようとする試みはなされなかった。一方我が国の状況については、岡井慎吾『玉篇の研究』により、『玉篇』の慶安2年刊本(1649)には部首を画数順に配列した索引が付され、『玉篇奇字早鑑』(1653)という書は『玉篇』所収の文字について、部首も部首内の文字も画数順に配列されている、あるいは『玉篇』の寛文3年刊本(1663)は、『玉篇』を『字彙』風に組み換えたものである等の貴重な指摘がなされている。しかし、その論及にはなお十分でないところがあるように思われたため、筆者においても関係資料を収集し、中味の検討を試みたところ、岡井氏の検討には誤りと思われるところ、なお不十分なところが少なくないことが明ちかとなった。氏は、部首を画数順に配列したのは『字彙』によったためとされるが、これについては『洪武正韻彙編』に依ったものである可能性があり、『玉篇奇字早鑑』の部首数は556であり、『玉篇』の部首が542部であるのと齟齬するなど、なお検討を要する点が多い。本年度は、部首の数、部首内の文字、部首の配列順等について、関係資料間(『玉篇』の諸版本、『玉篇奇字早鑑』、『洪武正韻彙編』、『字彙』)での突き合わせを行った。検討はなお続行中であり、その結果の公表は、将来に待ちたい。
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