2010 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀ロシア知識人のライフストーリーにみる親密圏と知的世界に関する研究
Project/Area Number |
19520636
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松井 康浩 九州大学, 大学院・比較社会文化研究院, 教授 (70219377)
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Keywords | 回想禄 / ロシア / 知識人 / 親密圏 / 家族 / ライフストーリー / 主体性 |
Research Abstract |
本研究は、1930年代~80年代の時期の記述を含むロシア知識人の回想録、日記、手紙などのライフストーリー文書を収集・検討することで、彼らの親密圏や知的世界を解明することを目指すものである。平成22年度は昨年度に引き続き資料収集とその分析を行うとともに、本研究の最終年度にあたって、成果の取りまとめ作業を行った。 前者の継続作業に関しては、モスクワの「ナロードヌィ・アルヒーフ(民衆アーカイヴ)」所蔵のライフストーリー文書を昨年度に引き続きマイクロフィルムの形で購入し、その分析を進めた。昨年度は、1920年代にトロツキー派に属したため、20年代末からスターリンの死去直前までの期間に計3度逮捕・投獄・労働キャンプ送りを経験したA・S・ゾートフが1970年代以降に執筆した回想録の分析に着手したが、今年度はその作業に加えて、新たに3人(V・I・エドーヴィン、E・G・キセリョーヴァ、Iu・G・ソボレヴァ)の回想録の検討を行った。特に最後のソボレヴァ(輸血学の専門家・生物学博士候補、1920年生)は、自身の回想録のみならず両親の回想も執筆し、家族3部作をものにした点がユニークである。彼女の一連の回想録は、深い家族の絆を窺わせる一貫したトーンで貫かれており、ソヴィエト体制下を生き抜いた知識人一家の親密圏の一端を解明することを可能にした。 以上の作業の成果はロシア史研究会大会で披露され、かつ「後期ソヴィエト体制下を生きた市民の主体性-ライフストーリー文書を手がかりに」と題した査読論文にまとめられた。昨年度に刊行した「20世紀ロシア知識人のライフストーリー研究の可能性-歴史家の青年期の日記を分析する試み」(松井康浩編『20世紀ロシア史と日露関係の展望-議論と研究の最前線』九州大学出版会、2010年)と合わせて、本研究が当初に掲げた研究計画を概ね実施することができたものと考える。
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Research Products
(3 results)