2008 Fiscal Year Annual Research Report
偽造罪の現代的変容とその刑法理論及び実務に対する影響に関する研究
Project/Area Number |
19530052
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
成瀬 幸典 Tohoku University, 大学院・法学研究科, 教授 (20241507)
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Keywords | 刑法 / 文書偽造 / 通貨偽造 |
Research Abstract |
本年度は、まず、(1)わが国の刑法典における各種偽造罪に関する規定の成立経緯を検討すると同時に、それら規定の解釈論として展開された各種偽造罪を巡る学説および判例の動向を分析した。(2)次に、1871年のドイツ帝国刑法典制定から20世紀前半までのドイツにおける各種偽造罪に関する学説および判例の展開を検討した。(3)さらに、「処罰の早期化の傾向が顕著である」と評されることが少なくない近年のわが国の刑事立法の動向に関する分析軸を獲得するため、危険犯(特に、抽象的危険犯)に関するわが国の刑法学者の見解を分析・検討した。 以上の研究の結果として、様々な知見が得られたが、特に注目に値する成果として、次の点を挙げることができる。(1)わが国の現行刑法典の文書偽造罪規定は、偽造文書の行使を成立要件とせず、行使の目的をもって偽造を行えば足りるとするなど、旧刑法に比べ、危険犯としての性格が強調されたものとなっているが、そのような修正の背景に、客体である文書が証拠としての性格を持つという考慮があったこと、(2)旧刑法下の学説上、文書偽造罪の成立を認めるために、「実害を発生させる目的」が必要であるかが争われ、法学協会雑誌において、誌上討論までなされたが、現行刑法典においては、「行使の目的」で足りるとされており、危険犯としての文書偽造罪という理解は、主観的要件においても、強調されたこと、(3)ドイツにおいては、すでに、19世紀末頃から、名義人の承諾がある場合の文書偽造罪の成否が、判例上、争われており、わが国における同種の問題に対して、示唆的な判断がなされていること、(4)ドイツにおいては、電報という新たな技術の発展が偽造概念の展開に大きた影響を及ぼしたことなど。
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Research Products
(1 results)