2009 Fiscal Year Annual Research Report
偽造罪の現代的変容とその刑法理論及び実務に対する影響に関する研究
Project/Area Number |
19530052
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
成瀬 幸典 Tohoku University, 大学院・法学研究科, 教授 (20241507)
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Keywords | 刑法 / 文書偽造 / 通貨偽造 |
Research Abstract |
本年度の研究実績の第1として、文書偽造罪をはじめとする各種偽造罪に関する、近年に至るまでのわが国における学説・判例の動向を分析したことを挙げることができる。その結果、偽造罪のうち、学説の発展が著しいのは、文書偽造罪の分野であること、わが国においては、文書偽造罪をめぐる重要な判例が登場した後に、その検討を通して、新たな見解が主張されるという過程を繰り返しており、偽造罪の分野における理論的発展を促しているのは、判例を中心とした実務であることが明らかになった。なお、平成13年の刑法改正で導入された「支払用カード電磁的記録に関する罪」については、現在に至るまで、理論的な発展を促す特筆すべき最高裁判例は見出されず、学説における議論も低調な状況にあることが判明した。本年度の研究業績の第2として、ドイツにおける各種偽造罪に関する学説・判例の分析を行ったことを挙げることができる。ドイツにおいても、偽造罪の中では、文書偽造罪に関する議論が活発である点、また、注目に値する判例の登場を受け、学説上の理論的な進展が見られるという点で、わが国と同様の状況にあることが判明した。特に、1980年代以降、文書偽造罪に関して、他人名義で文書を作成した場合にも偽造を構成しないことがありうるのか、逆に、自己の氏名を用いて文書を作成した場合であっても、その他の個人識別情報に虚偽があった場合には偽造に当たることがありうるのかということが問題になった複数の判例が登場しており、それらに対する学説の評価は、同様の問題に直面しているわが国にとって、極めて有益な示唆を与えるものであることが明らかとなった。
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