2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19530161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤尾 健一 Waseda University, 社会科学総合学術院, 教授 (30211692)
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Keywords | 多様性関数 / 属性アプローチ / 群集の機能的連関 |
Research Abstract |
本年度の理論研究では、不確実性に研究の重点を置き、特に「予防原則」の経済モデルを研究した。予防原則とは、期待効用仮説が支持する決定よりも、より慎重な決定をとる際に、その選択を正当化するための言葉と見なすことができる。生物多様性保全の問題においてしばしば求められているのも、そうした慎重な態度である。予防原則が理論的に正当化できる条件を求めて、マックス・ミン・期待効用アプローチやGollierら(2000,2003)のベイジアン・モデルを検討した。しかし、経済的含意に富む条件は今のところ得られていない。たとえば、Gollierら(2000,2003)のモデルでは、CRRA効用関数を用いるとして、予防原則に沿った意思決定が行われるのは、相対的危険回避測度が1より小さい場合であり、大きい場合には反対の結果となる。このような結果はおなじみのものではあるが、同時に解釈に困るものでもある。特に、動学モデルにおいて最適経路が環境保全的となる条件(危険回避測度が1より大)と全く反対である。 実態調査の側面では、引き続き生物多様性に対する人々の選好を知るための調査を行い、屋久島におけるエコツーリズムの実態を調べた。世界自然遺産に指定されて以来、屋久島は輸送能力の限界に近い訪問客を受け入れている。その多くが、縄文杉や白谷雲水峡といった人気スポットを訪れている。また、必ずしもエコ・ガイドの詳細な知識を求めているわけではない。これら屋久島の訪問者は多様性そのものではなく、多様性という記号を消費していると見なせるかもしれない。前年度調査したネペンテス・マニアが求める多様性(多様性のスペクトラムが内的外的に拡大することに価値を見出す)とはまったく異なる多様性への選好を知ることができた。
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