Research Abstract |
本研究の目的は,相互行為における応答の力が基礎となり,子どもと養育者の双方が責任を徐々に発達させると考えて,責任が文化的に形成される仕組みを探求することである.本年度は,まず日本国内において乳幼児がいる家庭の定期訪問を開始した.訪問先ではフィールドノートをとるとともに,ビデオカメラで養育者-乳幼児間の身体的相互行為,初期音声コミュニケーション,やりとり活動,模倣活動に関する映像資料を得ている.映像資料から書き起こしを作成し,さらに注目する行動・状態の分析を進めている.また,上記のデータを用いて研究代表者と研究協力者で定期的にデータセッションを行い,分析の妥当性の検討を行っている.さらに,これまで収集してきたサンの養育者-乳幼児間相互行為のデータを用いて以下の検討を行った.近年の赤ちゃん研究は,母子間相互行為を社会システムが形成される過程だととらえている(Kaye,1982;Tomasello,1999).ここでいう社会システムは,個々のメンバーが相手の行動を予期できることおよび共通の目的をもつことを要件としている.しかし私の調査データによれば,乳児が他者の意図を理解するずっと以前から養育者は乳児を養育活動の枠組みに巻き込もうとしている.乳児は近接する文脈に応答し,その参与の形式は月日を重ねるにつれて質的に変化していく.この見方をとれば,文化は心の中に構築されるシステムではなく,子供と他者が協働して社会的な意味を実現する,行為の組織だといえる.これらの研究成果の一部はアメリカ人類学会,日本発達心理学会,研究代表者が主催した国際シンポジウムMicroethnography of Child Care across Cultures等で発表された.また本研究プロジェクトのホームページおよび調査に参加した乳幼児の保護者に向けた報告書を作成中である.
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