Research Abstract |
本研究の目的は,相互行為における応答の力が基礎となり,子どもと養育者の双方が責任を徐々に発達させると考えて,責任が文化的に形成される仕組みを探求することである.平成21年度はまず前年度に引き続き日本国内で乳幼児がいる家庭11軒の定期訪問を行った.訪問先では養育者-乳幼児間の身体的相互行為,初期音声コミュニケーション,やりとり活動,模倣活動に関する映像資料を収集している.また米国及びアジア・アフリカ諸国でも上記に対応する映像資料の収集を行った.さらに責任形成における人類学的な基盤及びそれに基づくヒトの特徴を探るために,飼育下にある大型霊長類の映像資料の収集も開始した.これらと並行して,収集された資料のデジタル化・整理・分類も進めている.また研究代表者と研究協力者は,上記の映像資料の書き起こしに基づいて月に1~2度のデータセッションを行ってきた. 平成21年度は特に,自然な相互行為の過程における記憶の意味について集中的に検討した.子どもたちの記憶は,はじめは行為連鎖に埋め込まれた身体的なものである.その後,行為が記憶によって生みだされるメカニズムがこれに重なる.同時に,相互行為の流れの中で起動する予期の範囲は次第に拡がっていく.これを反映して,相互行為の流れの乱れに対する応答は感覚運動シェマの繰り返しから,他者による次の行為を見ながら待つ,文化的に許容されうる行為を創発的に展開するといったものに変化する.これは次第に複雑化する相互行為の連鎖組織において適切に振る舞うことを可能にする.さらにこうした過程を通じて,子どもたちは世代を超えて文化的に特異な活動を継承,再創造することが可能になる. 研究代表者と研究協力者はこれらの研究成果の一部をICISやAAACIG,日本発達心理学会や日本赤ちゃん学会,研究代表者が定期的に主催する「責任の文化的形成セミナー」等で発表した.また調査参加者に向けた報告書を作成し,保護者に配布するとともに本研究プロジェクトのホームページに掲載した.
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