2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730042
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嵩 さやか Tohoku University, 大学院・法学研究科, 准教授 (00302646)
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Keywords | 社会保障 / 公的年金 / フランス / 個人化 / 脱適帯化 / リスク / 連帯 |
Research Abstract |
平成20年度では、平成19年度に研究したフランスの公的年金制度をめぐる最近の動きを土台に、その後の進展も追いながら、関係する文献・資料を読み解くことで、そこで見られる「個人化」や「脱連帯化」の理念的背景とその制度のあり方への影響を検討した。研究の結果、年金制度における「個人化」は、「いつ労働するか」を選択するのが個人の権利であり、労働と社会保障との関係を「社会的引き出し権」という理念で架橋する新たな考えに大いに影響を受けていること、さらに保険数理的中立性という保険原理における正義の観点も影響していることが明らかになった。こうした分析は、年金制度の意義を、「集団での連帯」から「個人の中での所得分配制度」へと捉え直すことを意味し、今後の年金制度のあり方を左右する重要な転換点であると言える。また、仕事のつらさ(penibilite)の動きから看取される「脱連帯化」の動きについては、本年度の研究により、社会保険における保険集団を凝集していたリスクに対する「無知のべール」の崩壊を意味し、これまで社会保険において個性を捨象することによりある意味「平等」に取り扱われていた「個人」の出現を意味するとの分析が得られた。もっとも、仕事のつらさを年金給付に反映させる動きは、労使団体の交渉の決裂により進展していないため、社会保険における「脱連帯化」は今のところ顕在化していない。しかし、仕事のつらさに注目が集まり、社会保険で機能している連帯への再検討が促された点は、今後の社会保険での連帯の機能のあり方に確実に影響を与えるものといえよう。
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