2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730042
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嵩 さやか Tohoku University, 大学院・法学研究科, 准教授 (00302646)
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Keywords | 年金 / 社会保険 / リスク / フランス / 老齢 / 連帯 / 個人化 |
Research Abstract |
今年度は、本研究の最終年度として、これまでの研究の総括とともに、現在進行しているフランスでの年金をめぐる議論を調査した。具体的には、近年フランスで実施された年金改革が、個々人のリスクの相違に由来する社会的不公正を是正するため、個性を捨象された個人を凝集していた社会保険の「脱連帯化」をもたらしうるイソパクトを内包していることを明らかにした。こうした動きは、個人の選択の自由を強調する考えと相まって、集団的にリスクを相互に負担しあう社会保険の機能および意義を根本的に見直すことにつながり、今後の年金制度の改革を検討する上で重要な示唆を与える。特に、フランスでは2010年の制度見直しに向けて、少子高齢化の進展と経済危機を背景に公的年金について給付のポイント制や観念上の拠出建てへの移行が議論されると同時に社会保険における連帯のあり方について再検討を行っている。この現在の動きは、年金給付における個人化の模索とともに、連帯との調整を図ろうとしているものといえ、まさに本研究による検討か今後の改革を分析する上での重要な基礎を築いたといえる。 また、今年度は、「集団の中の個人」という観点から、日本の企業年金を素材に、集団的利益と個人的利益との衝突と調整についても検討を行った。具体的には、企業年金の受給者減額をめぐるこれまでの裁判例を調査し、従来の裁判例が制度の存続という集団的利益と受給権保護という個人的利益との調整をいかに図っているかを検討した。これまで年金制度においては埋没しがちであった個人の利益は、今後日本でもありうる個人化の動きによって、公的年金においてもより意識されるだろうと予想されるが、今年度の研究ではそうした個人化から派生するより実際的な問題の検討も行った。
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