2007 Fiscal Year Annual Research Report
個人化する社会における新たなる社会的連帯の構築に関する研究-労働問題の心理学化
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19730349
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Research Institution | Hiroshima Kokusai Gakuin University |
Principal Investigator |
山田 陽子 Hiroshima Kokusai Gakuin University, 現代社会学部, 講師 (10412298)
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Keywords | 知識社会学 / 心理学化 / 心の健康 / 自殺 / リスク / 医療化 / メンタルヘルス / 個人化 |
Research Abstract |
近年、鬱病対策や過労死・過労自殺の予防など、労働者の「心の健康」への社会的関心が高まっている。本研究の目的は、労働問題の「心理学化」・「医療化」について分析することを通して、「個人化」した社会における「個人と社会」の関係について考察を深め、新たなる社会的連帯の可能性を探ることである。 本年度の研究では、「心の健康」に関する法令や政策、官公庁発票の統計、産業保健スタッフや人事労務担当者を対象としたメンタルヘルス研修会での参与観察、EAP(従業員支援プログラム)会社の幹部からの聞き取りなどを行い、「心の健康」に関する資料収集を行っている。そして、それらを踏まえて、知識社会学的な観点から、労働者の「心の健康」をめぐる知の布置連関を整理し、労働問題が「心理学化」ないし「医療化」していることを明らかにしている。 まず、「心の健康」をめぐる政策を法令、予算投入に注目して、「心の健康」が一つの社会現像としてどのような様相を呈しているのを浮き彫りにした。次に「心の健康」をめぐるエージェント-労働者、上司・管理監督者、産業保健スタッフなど-と専門知や介入テクノロジーの布置連関を明確にしている。さらに、労働者の「心の健康」対策において広く用いられているストレスチェック票や、過労自殺やうつ病の業務起因性の判断基準に検討することにより、リスク思考の導入に伴って労働問題が「心の健康」問題へと意味を変換されていく過程について明らかにしている。長時間労働や業務裁量性の低さ、セクハラやパワハラ、職場のいじめなど、産業構造や社会情況などの多様な要素が複雑に絡まりあって生じる労働問題が、「健康リスク」やストレスマネジメントの観点から照射されるとき、それは社会的政治的問題というよりも個々人の健康を阻害するリスト因子・ストレッサーとして姿を現すことになる。
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