2010 Fiscal Year Annual Research Report
個人化する社会における新たなる社会的連帯の構築に関する研究―労働問題の心理学化-
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19730349
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Research Institution | Hiroshima Kokusai Gakuin University |
Principal Investigator |
山田 陽子 広島国際学院大学, 現代社会学部, 講師 (10412298)
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Keywords | 感情資本主義 / 感情管理 / 医療化 / 心理学化 / メンタルヘルス / 専門職 / EAP / 自殺 |
Research Abstract |
今年度は研究期間の最終年度にあたるため、これまでの質的調査や文献調査を継続しつつ、内容をまとめる作業を行った。時間管理術に関する自主的勉強会での参与観察や、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアの関係者に行ったインタビュー内容や参与観察の結果について分析している。 まず、時間管理術の勉強会での参与観察の結果、「個人化」した社会では、時間もまた「個人化」していること、自らが時間を管理しているという実感が現代の自己にとって重要な意味をもっていること、時間を組み立てることと自己を組み立てることとの関連が明らかになった。 また、ビジネスパーソンのメンタルヘルス関係者へのインタビュー調査や参与観察の結果から、メンタルケアの専門職である産業医やEAP(従業員支援プログラム)の日本における状況について整理した。また、どのような枠組みによってビジネスパーソンの感情が解釈・操作されるのか、組織的な感情コントロールはどのように行われるのか、合理性や効率性が要求される職場という領域においてどのような種類の感情が「不適切な感情」(Hochschild, 1983)とみなされるのか、それはどのようにして発見され、解消されることになるのか、現代資本主義社会において「効率的に業務を遂行すること」と「感情に向き合うこと」がどのようにして両立するのか、「効率的であるためにこそ感情を利用する」ということの具体的様相とはどのようなものか等について調査結果から明らかにしている。 従来、精神疾患の医療化についての議論や心理学化論、「感情労働」に関する研究がなされてきたが、ビジネスパーソンのメンタルヘルスに特化した社会学的研究は未だ十分に展開されていない。本研究は、ビジネスパーソンのメンタルヘルスを社会学的研究の俎上に載せ、現代人の感情を取り巻く文化と医療、産業の結節点として捉えなおした点に意義と重要性がある。
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