2008 Fiscal Year Annual Research Report
国境を越えるメディアがナショナル・アイデンティティに与える影響に関する研究
Project/Area Number |
19830061
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤田 結子 Keio University, メディアコミュニケーション研究所, 准教授 (30453533)
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Keywords | メディア / ナショナル・アイデンティティ / 国際移動 / トランスナショナリズム / 日本人 / ニューヨーク / ロンドン |
Research Abstract |
平成20年度も引き続き、本研究の目的である「国境を越えるメディア(衛星テレビ放送、インターネット、携帯電話など)の利用は、国民アイデンティティの形成にどのような影響を与えているのか」について考察を行い、そのための文献研究と事例調査を実施した。事例調査に関しては、前年度の補足として、ニューヨーク在住の20代の「二世」数名を対象に、現地に流入する日本製・日本語のテレビ番組、ビデオ、インターネット、携帯電話の利用とアイデンティティに関するインタビュー調査を実施した。上記の結果、以下のことが明らかになった。 (1)国内で生まれ育った後、海外へ渡った若者たちの場合、国境を越えるメディアの利用が、トランスナショナル・アイデンティティの形成を促すことはなかった。むしろ、受け入れ国において衛星テレビ放送やインターネットを利用することで、「日本人」としてのアイデンティティを再発見・再形成していた。 (2)海外で生まれた/育った若者の場合、いくつかのパターンが見られた。まず、両親ともに日本人の者は、衛星テレビ放送やインターネットの利用を通して、「日本人」としてのアイデンティティを再発見・再形成していた。つぎに、日本人と日本人以外(例えばスリランカ人、イギリス人など)の両親を持つ者の中には、どの国民にも帰属意識を持たないアイデンティティを抱いている者が観察された。このようなケースでは、衛星テレビ放送やインターネットの利用を通して、出身国とのつながりを維持し、複数の国にまたがる多層的な文化やアイデンティティを再形成していた。 このように、国境を越えるメディアの役割は、利用者の属性よって変化することが明らかになり、メディアと国民アイデンティティに関する理論の発展に貢献できる、意義ある調査結果が得られた。この成果は、Cultural Migrants from Japan: Youth, Media and Migration in New York and London (Lexington Books,2009)などに発表した。
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