2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H00661
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田中 良和 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (90250109)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80323525)
田中 義人 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (80260222)
大浦 正樹 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, チームリーダー (50250113)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 強相関系 / 放射光 / 共鳴X線回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
多極子は本来一原子における波動関数で表されるが,これを拡張した近接原子を含めたクラスター多極子や、軌道角運動量の異なる軌道から構成されるハイブリッド多極子などの拡張多極子が提唱されている.この背景には,マルチフェロイック物質に代表される交差相関による電気磁気応答,輸送現象,励起構造などの非自明な物理現象を統一的に理解する試みがある.ここでは局所的な空間反転対称性と時間反転対称性の破れを表す奇パリティ拡張多極子の働きを理解することが重要である.この奇パリティ拡張多極子は,物質内でドメインを形成し,そのドメインが外場によって変化することによって物性を変える. 共鳴X線回折は拡張多極子が形成するドメイン構造を可視化できる一つの手段である.各元素の吸収端を利用することによって拡張多極子を同定し,マイクロビームによる走査によってドメイン構造を観察することができる.今年度はアナポール秩序が存在すると考えられているCuO,低温で反磁気四極子秩序が現れるPb(TiO)Cu4(PO4)4のドメイン構造の研究をおこなった.室温マルチフェロイック物質であるSr3Co2Fe24O41 は,サイクロイダル磁気構造とフェリ磁性構造の二つが複合した磁気構造になっており,この二つの構造ドメインを磁場中で別々に分けて見ることができた.また装置開発として,ゾーンプレートの設計製作を実施した.ゾーンプレートは軟X線ビームに対しレンズの役割を果たし,従来のミラー集光によるマイクロビームをナノビームまで細くすることが可能であり,空間分解能の飛躍的にあげることができる.さらに回折装置の改造を行い,試料回転の範囲を拡大した.これによってより詳細なドメイン構造の研究が可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通りゾーンプレートの設計製作を行った.設計思想としてエネルギーの低いFe L3吸収端(710 eV)とより高エネルギー側の希土類M5吸収端(>1000 eV程度)の二つエネルギー領域において,二種類のゾーンプレートを製作することとした.2019年度は主にFe L3吸収端に対して,集光サイズ170 nmとなるゾーンプレートを製作した.設計集光サイズはミラー集光によるビームサイズ20 μmの1/100以下である.これによって空間分解能が飛躍的に向上し,ドメイン形成の動的観察がより詳細に行えることが期待できる.また,回折装置の改造を行い,方位角回転を従来の±90度を±120度まで拡張し,チルト角も±5度を±10度まで回転できるようにした.特に方位角回転角の拡張は,対称性の低い磁気秩序を観察する上で重要である. 拡張磁気多極子のドメイン研究においては,アナポール秩序を示すCuOのドメイン構造,反磁気四極子秩序を示すPb(TiO)Cu4(PO4)4のドメイン構造,また室温マルチフェロイック物質である六方晶フェライトSr3Co2Fe24O41 の多重磁気ドメイン構造の観察をおこなった.Sr3Co2Fe24O41 は,サイクロイダル磁気構造とフェリ磁性構造の二つが複合した磁気構造になっており,この二つの構造ドメインを磁場中で別々に分けて見ることができた.この結果は,2019年度に論文として出版した.CuOとPb(TiO)Cu4(PO4)4の拡張磁気多極子ドメイン構造の研究はほぼ終了し,現在結果をまとめている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は高エネルギー用のゾーンプレートの設計,製作を行う.これらのゾーンプレート集光システムを確実に稼働させるための制御装置を新たに導入する.またドメイン制御の外場として,磁場,電場以外にレーザービームを導入する. 昨年度に設計,製作した低エネルギー用のゾーンプレートを用いて拡張磁気多極子のドメイン構造とその制御を行う.ナノメートル集光を用いた様々な実験を実施する.今後アナポール秩序の可能性があるHgBa2CuO4や,反磁気四極子秩序があるPb(TiO)Cu4(PO4)4,Bi2CuO4などの物質の測定を計画している.これらの物質における複合ドメインの電場,磁場,レーザービームによる観察と制御を推進していく.
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Research Products
(4 results)