2019 Fiscal Year Annual Research Report
彩層からコロナまでの広温度域太陽大気プラズマに実験室から迫る
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19H00665
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 弘久 国立天文台, SOLAR-Cプロジェクト, 准教授 (20270457)
村上 泉 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (30290919)
坂上 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (40250112)
山本 則正 中部大学, 工学部, 准教授 (40350326)
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 太陽コロナ / 鉄多価イオン / 真空紫外スペクトル / プラズマモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はSolar-C計画で提案されている彩層からコロナまでの広い温度域の分光診断に先立ち、広い温度域にわたる太陽大気プラズマに実験室から迫ることを目的としている。具体的には、電子ビームイオントラップで得られる良く定義された実験室プラズマのスペクトルを取得し、必要となる原子データを蓄積することが目的の一つである。これまでも我々は、すでに現在稼働中の観測衛星ひのでEISの観測波長域(17-29nm)をカバーする極端紫外域の分光器を用い、鉄をはじめコロナに存在する多価イオンのスペクトル観測を電子ビームイオントラップを用いて行ってきた。 本研究ではまず、Solar-C計画で観測予定波長域(10-130nm)をカバーする新たな真空紫外分光器を電気通信大学の小型電子ビームイオントラップに導入するため、その設計・製作を行った。目的とする波長域を対象とする市販の回折格子分光器もあるが、それらは全て入射スリットを利用するものである。一方、電子ビームイオントラップではスリットを用いずに高効率な測定を行えることが最大の特徴であるため、その特徴を活かす専用の分光器を独自に設計した。分光器の検出器としてはマイクロチャネルプレート(MCP)を5枚用いることで空間分解能を向上させた検出器を選定した。検出器用の位置演算回路の納品がコロナ感染拡大により遅れたが、分光器本体は完成した。 核融合科学研究所においては、計算サーバーとファイルサーバーを導入し、原子モデル構築のための準備を進めた。また、核融合科学研究所に既存の分光器の検出器のために専用のプリアンプを導入し、電気通信大学に設置予定の分光器に加えて、核融合科学研究所でも真空紫外域のスペクトル観測を行えるよう準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
世界的なコロナ感染拡大の影響により、検出器の位置演算回路の納品が2019年度中に間に合わないなどの事態が発生したため、分光器の完成および試験が当初予定より遅れた。その意味で「やや遅れている」と判断した。 しかしながら、分光器の設計およびその真空部品の製作は当初の予定通り進み、納品が遅れた位置演算回路以外のすべての構成部品は2019年度内に組立が完了していたため、演算回路の納品と同時に分光測定試験に直ちに取り掛かることが出来た。また、ブロードエネルギー検出器についてもコロナ感染拡大影響のため納品が遅れたが、これは分光器と同時に使用し、イオン源の状態をモニタするものであり、分光器の稼働開始には間に合ったため特に問題は生じなかった。 核融合科学研究所では予定通り計算サーバーとファイルサーバーの導入を行い、原子モデル構築のための計算環境を整えた。また、核融合科学研究所に既存の分光器を有効に活用するため、既存の検出器に専用のプリアンプを新たに導入することで、電気通信大学と並行して真空紫外域の分光測定を行える環境を整えることもできた。 以上より、コロナ感染拡大による納品遅れの影響は最小限にとどまっていると判断できる。また、年度末の研究打ち合わせも主にリモートを用いて行ったため、一部不便はあったが、共同研究における意思疎通に障害となるような不都合は生じなかった。 以上より、「やや遅れている」と判断したものの、その遅れは次年度に十分取り戻せるだけの進捗を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
世界的なコロナ感染拡大の影響により、米国メーカーの検出器用位置演算回路の納品が遅れ、計画の一部に予定の遅れが生じたが、上述したようにその影響は最小限に留まっている。遅れた回路の納品により分光器が完成し、本研究で重要な課題の一つである真空紫外域の分光測定環境が整った。今後はこの真空紫外域の分光測定に加え、既存の極端紫外分光器も併用して、太陽大気の分光診断に資するベンチマークデータを取得する。特に発光線強度比の密度依存を取得することが重要であるが、その定量的な測定のため、電子ビーム径のイメージングとトラップイオンの空間分布のイメージングを同時に行い、その重なり因子を考慮した実効電子密度を実測することを行う。電子ビーム径のイメージングは、極端紫外域発光強度の空間分布をピンホールカメラの原理を利用して測定することにより行う。極端紫外域の発光は遷移寿命が短いため、電子ビーム内で起こる。そのため、その空間分布は電子の空間分布を表すことになる。一方でトラップイオンの空間分布のイメージングは、可視域発光線の空間分布をイメージングすることにより行う。可視域の発光線は通常長寿命の磁気双極子遷移であるため、その空間分布はイオンの空間分布を表すことになる。 核融合研究所では原子モデルの構築を進める。これまでにもモデル計算は行われていたが、それらの計算では単一の価数内での励起、脱励起過程のみを考慮していた。そこでまず、より低い価数からの電離を含めたモデルを検討して構築する。また、核融合科学研究所の小型電子ビームイオントラップを用いて、電気通信大学と相補的な分光測定を行い、効率的かつ系統的にデータを取得する。国立天文台では、EISの観測データ解析を進めるとともにSolar-C計画で必要な分光データの検討・見積もりを進める。
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Research Products
(1 results)