2022 Fiscal Year Annual Research Report
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19H00671
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
松本 伸之 学習院大学, 理学部, 准教授 (30750294)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子制御 / オプトメカニクス / 低散逸振動子 / ウィーナフィルタ / カルマンフィルタ / 光計測 / 量子もつれ |
Outline of Annual Research Achievements |
精密力センサーは重力計、慣性センサー、地震計、重力波望遠鏡といった広範な領域で利用されてきた。本研究では、ミリグラムスケールの微小な物体から生じる重力を精密に測定可能な力センサーの開発を目指す。従来の重力源(>キログラム)より小さな物体から生じる重力を測定することで、重力定数の測定という応用においては、物体の密度の不均一性等に由来する系統的な不確かさを抑えることが可能になる。さらに、重力源自体の振動モードを量子制御すれば、量子状態にある物体が生じる重力の性質の解明にもつながると期待される。物体の振動モードを量子制御するためにもまた力センサーを利用することができ、本研究では、ミリグラムスケールの巨視的物体の量子制御にも取り組んできた。 昨年度の研究により、振動子の回転振動が重心振動の変位計測に及ぼす影響を解析的に明らかにした。重心振動と回転振動が光ばねを介して強結合状態となり、二つのモードがnormal mode splittingすることで重心振動の熱振動が増大する。これを回避するため、既に開発に成功していた一本の超細長線(直径1um、長さ5cm)をレーザー溶接することで実現した世界最小散逸を持つ(つまり熱振動が最も小さい)懸架鏡を改良し、2本線を溶接した低散逸懸架鏡を実現することに成功した。さらに、二つの振動子をパワーリサイクルマイケルソン干渉計の両腕に組み込むことで、二つの振動子の差動振動と同相振動の間に量子もつれを生成できることを理論的に示すことにも成功した。それぞれの振動子の変位はレーザー光量の変動から線形連続計測されるため、測定結果に条件付けられた状態(conditional state)の不確かさはスクイーズされる。二つのスクイーズ状態を重ね合わせることで量子もつれが生成されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究には、量子制御が可能な振動子のスケールを巨視化することと、重力測定が可能な重力源のスケールを微視化するという2つの目標がある。昨年度の研究により、測定に基づく量子制御に対する理解を深めることに成功し、既に開発に成功した低散逸振動子を利用することでミリグラムスケールの振動子の量子制御が現実的に達成可能であることを示すことに成功した。具体的には、下記の(1)-(6)の成果を達成した。 (1)従来の手法とは異なり、光ばねと呼ばれる離調共振器内で生成される光学ポテンシャルでトラップされた巨視的振動子を対象とした量子フィルタの開発に成功、(2)量子もつれ生成に対する要求値を解析解から評価し、現時点での実験パラメータで実現可能なことを確認、(3)制御対象ではない振動モードである回転モードの影響を考慮に入れた場合の量子フィルタの開発に成功、(4)並進振動モードと回転振動モード間が光ばねで結合することで並進振動モードのQ値が悪化する現象を実験で確認し、厳密な理論解と一致することを確認、(6)回転振動モードの悪影響を低減することが可能な2本の超細長線(直径1um、長さ5cm)で懸架された低散逸振動子(ダンピング定数~6uHz)の開発に成功した。 項目(6)の成果は、微小重力測定の観点からも重要である。従来の一本吊り懸架鏡を使った実験では、yawモードの励起に起因した不安定性のため光共振器の安定動作時間が10秒程度と制限されるという課題があったが、新たな振動子を利用することで長時間安定に共振器を動作できると期待できるためである。本研究で開発に成功している低散逸振動子の低雑音性能から、1秒以上の測定時間で先行研究よりも高い精度で微小重力測定が実現可能だと理論からは予測されるため、動作時間を10秒よりもさらに長時間化することが重要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、これまでに引き続き量子制御の巨視化と、重力測定における重力源の微視化に挑む。量子制御については、これまでに取り組んできた振動子の機械スクイーズ状態の生成と検証に取り組む。重力測定については、2本線で懸架された新型低散逸振動子を用いた長時間測定に取り組む。 量子制御:測定に基づく機械スクイーズ状態とは、条件付き分散の位置揺らぎがスクイーズされた状態である。条件付き分散は、振動子の真の状態と量子推定された推定結果の間の差から求まる。しかし、測定に含まれる量子雑音の影響で真の状態は測定不可能なため、条件付き量子状態の検証は困難である。そのため、条件付き分散の値を算出するために、retrodiction(未来予測)フィルタと呼ばれる量子フィルタが必須となる。量子推定で使用するフィルタは因果律に従うように設計されるが、retrodictionでは非因果的なフィルタを利用しており、量子推定された状態の分散と非因果的に推定された状態の分散の和を計算することで、条件付き分散を検証する。本年度は、retrodictionフィルタを開発し、機械スクイーズ状態を検証することを目指す。
重力測定:新たな振動子を光共振器に組み込み、光ばねでトラップする。振動子の変位精度を向上し、目標の値まで雑音を低減する。振動子の隣に重力源となる金属カンチレバーを取り付け、励起する。懸架鏡とカンチレバーの間の重力相互作用により、光共振器の反射光量が変動することを観測し、両物体間の距離を変えながら同様な実験を繰り返す。これにより、逆二乗則に従う信号が観測され、重力定数の値を算出する。100秒の観測により、ミリグラムスケールの重力源を使って重力定数を0.1パーセントの精度で算出することを目指す。
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Research Products
(9 results)